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関東の諸都市・地域を歩く


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#87 新座市・朝霞市散歩 〜武蔵野の雑木林、新緑の輝き〜 

 武蔵野は、元来茫漠たる草原が広がる原野で、水の得にくい台地が卓越する地域は長らく相対的には人口の希薄なエリアであったと考えられます。かつて東京湾に注いでいた利根川や荒川などの流路が一定せずいわゆる「暴れ川」の様相を呈していた地域と合わせ、古来からの郡名(多摩、足立、葛飾など)が、都県境を越えてかなり広い範域を持っていたことはそうした地域の実情を反映したものであったといえるでしょう。2014年6月1日、JR武蔵野線新座駅を訪れてこの日の活動を始めました。2010年11月以来、武蔵野の雑木林の風景をよく残す平林寺を再訪します。
 
新座駅前

JR新座駅前のの景観
(新座市野火止五丁目、2014.6.1撮影)
新座駅前

新座駅前・野火止用水をモチーフにした散策コース
(新座市野火止五丁目、2014.6.1撮影)
野火止用水

野火止用水公園と野火止用水
(新座市野火止七丁目、2014.6.1撮影)
国道254号

国道254号の景観
(新座市野火止四/七丁目、2014.6.1撮影)
野火止緑地総合公園

野火止緑地総合公園(こもれび通り北の雑木林)
(新座市野火止四丁目、2014.6.1撮影)
平林寺大門通り

平林寺大門通りの景観
(新座市野火止三丁目、2014.6.1撮影)

 新座駅前はショッピングモールをはじめ飲食店が集まる郊外における中規模の商業中心として機能しています。ビルの間をまっすぐに、野火止用水をイメージさせるようなせせらぎが続いていまして、ヤナギやアジサイが夏の色どりを添えていました。この小流に沿って設けられたプロムナードを歩いていきますと、周囲は戸建ての住宅が立ち並ぶ風景へと移り変わります。ふるさと新座館のある一角から南へ、「平林寺・野火止用水散策コース」として供される遊歩道を、野火止用水の流れに沿って進みます。ロードサイド型の大型店舗が立ち並ぶ国道254号を歩道橋で越えて、左手に広がる雑木林に並んで進む緑道を進みました。野火止用水は江戸の上水道である玉川用水から取水し新河岸川へ導水した全長約25キロメートルの灌漑用水です。開削した川越藩主松平伊豆守信綱に因み「伊豆殿堀」とも呼ばれます。ここで野火止用水本流から別れ平林寺境内の北を東へ、「こもれび通り」と名付けられた道路沿いも、豊かな雑木林が木陰をつくっていまして、その名の通り木々の間から射す日の光がさわやかな道筋でした。

 新座市役所交差点から「平林寺大門通り」を進んで、平林寺の惣門前へと至りました。惣門の周りも道路の両側が雑木林になっていまして、緑のトンネルの中を進むような格好となります。平林寺は1375(永和元)年、現在のさいたま市岩槻区平林寺に開山しました。1663(寛文3)年、当寺を菩提寺とした前述の松平伊豆守信綱の遺命により現在の場所に移転し現在に至っています。眼前の惣門をはじめ、三門、仏殿、中門の4建造物は岩槻から移築されたもので、県の有形文化財(建造物)の指定を受けています。武蔵野の雑木林の様相を良好に残す平林寺の境内林は国の天然記念物の指定を受けています。秋は紅葉の名所として多くの参詣客が訪れる境内は、秋同様にたおやかなきらめきに溢れる新緑を訪れる人影はまばらで、さわやかな風が吹き渡る太陽の結晶のような青葉を心ゆくまで楽しむことができました。

平林寺惣門

平林寺惣門
(新座市野火止三丁目、2014.6.1撮影)
平林寺仏殿

平林寺仏殿
(新座市野火止三丁目、2014.6.1撮影)
平林寺中門

平林寺中門
(新座市野火止三丁目、2014.6.1撮影)
平林寺境内の景観

平林寺境内の景観
(新座市野火止三丁目、2014.6.1撮影)
平林寺堀

平林寺境内の野火止用水平林寺堀
(新座市野火止三丁目、2014.6.1撮影)
平林寺境内林

平林寺境内林
(新座市野火止三丁目、2014.6.1撮影)

 平林寺境内林は、クヌギやコナラ、エゴノキなどの、薪炭や肥料として日常生活に利用された木本を中心とした雑木林に、シラカシやマツなどが混交する、典型的な武蔵野の雑木林の面影を残しています。繰り返し伐採しながら維持されてきた雑木林の環境を後世に伝えるために、およそ20年の周期で根元から切り倒し、萌芽更新を促す作業が続けられています。平林寺が移転した際に野火止用水から分流され境内に引き込まれた「平林寺堀」の遺構も確認しながら、緑に包まれる境内を歩きました。隣接する新座市睡足軒の森の風情にも浸った後は、平林寺大門通りを北へ戻って、国道254号を横断して野火止大門交差点へ。県道109号の道筋は、この付近では川越街道の旧道にあたります。川越街道は国道254号の通称として広く普及していますが、現在の国道はバイパスとして建設された新しいルートです。明治期の地勢図を確認しますと、現在の県道109号にあたる川越街道沿いにだけまとまった集落が街村状に形成されていまして、その南の国道の現道や平林寺境内の周辺一帯には、「畑」や「楢」といった文字があるのみで、畑や雑木林が広がる土地利用であったことが想像されます。現在の近隣は畑地をわずかに残しながらも住宅地が広がる景観となっています。交差点の一隅には寺院名を刻んだ石塔があって、幹線道路であった川越街道から名刹への入口にかつて存在した大門の雰囲気を今に伝えていました。

 野火止大門交差点からは県道を東へ、旧川越街道筋を辿りました。野火止下交差点からは隣の朝霞市域へと入ります。膝折町四丁目交差点を過ぎますと、道は急速に下りになって、左手(東側)の視界が開けてきます。黒目川が台地を侵食した、台地の縁にあたる急崖を、県道は下っていきます。かつての街道はこの急勾配の坂を上るためにゆるやかにカーブしていたようで、膝折町四丁目交差点先から斜めに南に入り、膝折町三丁目交差点から同一丁目交差点へと戻るルートがその道筋にあたります。現在の県道はこの曲線部分をショートカットし直線状に進んでいるわけです。膝折町一丁目交差点から先の県道沿いがかつての川越街道膝折宿のあった場所にあたります。周囲の市街地に取り込まれていますが、道路に沿って細長い区画が色濃く残されていまして、かつての宿駅の様相を物語っています。

野火止大門

野火止大門交差点にある石塔
(新座市野火止七丁目、2014.6.1撮影)
膝折町四丁目

膝折町四丁目交差点
(朝霞市膝折町四丁目、2014.6.1撮影)
黒目川の作る崖を下りる

黒目川のつくる崖を下りる
(朝霞市膝折町四丁目、2014.6.1撮影)
朝霞駅前

東武朝霞駅前
(朝霞市本町二丁目、2014.6.1撮影)

 この日はたいへんな暑さで、この後さいたま市の見沼田んぼ方面へも進もうと思っていたため、朝霞駅前まではバスを利用しました。市の玄関口として再開発が進んだ駅前には、夏の鮮やかな空の下、都心郊外におけるゆったりとした市街地が広がっていました。新座駅から朝霞駅までの移動は、比較的わずかな距離の間に新しい市街地と、武蔵野の原風景を感じる雑木林とが併存する、この地域の活気と美観とを訪ねる行程となりました。

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