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シリーズ京都を歩く
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23.桜香点綴の詩 ~2021年陽春の京都を歩く~ |
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第六十三段 東山、春の余韻に浸る夕刻 ~桜のグラデーションと夕闇~ 2021年3月24日、嵐山からきぬかけの路、北野界隈から東へ、東山の銀閣あたりまで進んでいた私は、銀閣寺門前から疎水沿いの哲学の道へと歩を進めました。京都盆地から見て東側に連なる山は東山と呼び習わされ、その山麓には多くの寺社が営まれてきました。哲学の道は、琵琶湖の水を京都市街地へと引き込んだ、明治期における一大事業であった、琵琶湖疎水の分流(疎水分線)沿いに続く散策路です。ソメイヨシノのほか、オオシマザクラや山桜など、他の種類の桜もあって、それぞれに情趣を溢れさせていました。
桜色に彩られる散策路をしばし歩きます。桜の美しい天蓋に重なるように、楓などの新緑も芽吹き始めていて、春たけなわの時節は着実に初夏への階段を上っていることを実感します。ユキヤナギもしなやかな白い花を滝のように迸らせています。哲学の道は、疎水沿いに礎石が並ぶ部分があったり、住宅地の沿った未舗装の道路となる箇所もあったりして、この歩程が地域により身近な風景となっていることも見逃せない特質だと思っています。それらの環境が、京都から見て東に連なることからそう呼ばれる、東山のしなやかな山塊に彩られている、それこそが哲学の道をそう呼ばせしめる、最大かつ唯一の要素であるとも感じるのです。 春から初夏へのグラデーションに染まる散策路を南へ進んだ後、一度西へ折れて、白川通を渡り、秋は紅葉の名所として参詣客を集める真如堂(真正極楽寺)へ。境内に多く植えられた楓は、今まさにその若緑を萌え出ずらせらんとしているようとしていて、その輝かしい新芽を春の青空に染めさせていました。そして、これまであまり気に留めることが無かったのですが、真如堂の境内にも複数のソメイヨシノの木があって、穏やかに花を咲かせていたのでした。西へ傾きつつある太陽を背に、三重塔とソメイヨシノとが重なるアングルは、紅葉の季節の境内に勝るとも劣らない麗しさに満ちていました。
真如堂から東へ白川通沿いに坂を下り、東山の山並みを眺めながら、再び哲学の道へと戻ります。依然として満開のソメイヨシノが散策路に咲き誇る中、穏やかに流れる疎水の佇まいと、東山の豊かな緑と稜線のしなやかさとが味わいのある、仲春の光景を演出していきます。季節ごとにさまざまな風景を探勝できるこのルートですが、やはり桜の季節は格別の優美さに包まれているように感じられます。夕刻が徐々に近づくにつれて、花の色はよりその鮮麗さを増して、哲学の道の自然美をより艶やかなものにしていきます。熊野若王子神社近くの、哲学の道の南の入口付近からは、京都盆地への眺望が開けるスポットがあって、そこは私が最も好きな京都の遠景が広がる場所です。目の前の寺院の甍と、桜の雲越しに眺める京都盆地の風景は、夕方の慎ましやかなオレンジの光彩を纏って、筆舌に尽くしがたい雅な景色です。 哲学の道から外れて、緩やかな坂道を道筋も、京都らしい町並みが続く散策路となります。振り返ると東山のたおやかな山並みを間近に見通せて、この山々に囲まれたこの町の興隆の必然と、そこに効果的に介在する自然物の妙とを感じずにはいられません。永観堂(禅林寺)の門前や、東山高校の前を通り、大寂門をくぐり南禅寺へ進む路程も、東山を辿る定番の道筋です。満開のソメイヨシノが点々と灯火のように咲く掲載を歩きながら、秀麗な三門のある南禅寺の結構を鑑賞しました。
南禅寺からは、蹴上のインクラインから粟田口を経て円山公園へ、日が傾く中散策を続けました。円山公園のシダレザクラは、夕闇を背負い、東山に寄り添って、そのこの上無い艶麗を夜風に漂わせていました。知恩院門前から二年坂、産寧坂を辿り、若葉萌える清水寺へ。夕日に染まる堂宇は西山へと沈むやわらかな陽光を鮮やかに受け止めていました。陽が落ち、徐々に町灯りの増える、祇園、鴨川端、そして四条河原町にかけての風景は、仲春の空気が醸し出す、瑞々しい叙情に染められているようでした。 |
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