Japan Regional Explorerトップ > 地域文・近畿地方 > シリーズ京都を歩く・目次
シリーズ京都を歩く
←第十八段のページへ |
第二十段のページへ→ |
||||||||
7.洛北の山里を行く |
|||||||||
第十九段 夕闇の貴船 鞍馬の深閑たる森は、裸地から陽樹、陰樹が成育し、カシやシイなどの照葉広葉樹がわずかな針葉樹とともに安定した樹相を見せるようになった、「極相林」の状態になっていると、鞍馬寺による説明案内板は語っていました。極相林となるためには200から300年の歳月が必要とされることを注記しながら、木々などの自然も人間などのほかの生物と同じで大いなる存在によって互いに生かされている存在であることを説き、自然を守るよう促すことばで結ばれていました。午後3時を回り、豊かな森にも夕闇が刻々と迫っていました。辺りは静かさによって支配されていまして、時折木々を揺らす風がその静寂をいっそう感じさせました。奥の院魔王殿には10数人の人々が本殿に並べられたベンチ状の椅子に座って、磐座に向かって目を閉じて祈りをささげていました。
山道は坂を下りながら、カーブを描きながら続いていき、やがて黒木の鳥居から笠木を取り除いたような形のシンプルな構造の門-鞍馬寺西門-へと導かれました。門の外は小さな流れに架けられた橋へとつながっています。ここは貴船。川は貴船川です。たおやかな山奥(さんおう)の貴船は、川床を擁する旅館が軒を連ねておりまして、高級感溢れる情緒を漂わせています。夕刻の紅葉は軒先の提燈や道端に置かれた灯篭などのほのかな明かりに照らされて、えもいわれぬ美しさです。貴船川沿いを歩きながら、貴船神社へと向かいました。神社への石段の両側にも朱塗りの灯篭が並び、足元にも明かりが点されて、幻想的な雰囲気を盛り上げています。
貴船神社参拝を終えて、貴船口駅方面のバスに乗車しようと川沿いへ再び出た頃には日はどっぷりと暮れていました。貴船川はその川面に篝火や灯篭などの光を穏やかに返しています。明かりに照らし出された楓の赤も夕闇に包まれてさらに輝きに溢れていきます。貴船はこの瞬間、極上の秋の輝きの中にありました。穏やかな川のせせらぎ、ほほを濡らすような秋風のさわやかさ、そして、周囲を彩る紅葉の色。その大半は人工的な造形によって演出されたものであるとはいえ、そうした風景に秋らしさを感じる基底には、日本の秋の和やかな情趣が現代にも脈々と存在し続けているためなのではないかと思いました。 |
|||||||||
←第十八段のページへ |
第二十段のページへ→ |
||||||||
このページのトップへもどる シリーズ京都を歩く目次のページへもどる ホームページのトップへもどる |
|||||||||
(C)YSK(Y.Takada)2003-2007 Ryomo Region,JAPAN |