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関東の諸都市・地域を歩く
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#159 牛久市街地とその周辺 ~牛久沼を望む首都圏の近郊都市~ 2019年5月4日、茨城県南部の常磐線沿線に位置する牛久市を訪れました。牛久市街地を訪れる前に、市東郊にある牛久大仏を概観しました。地上高世界最大のブロンズ製仏像として知られるその像は、圧倒的なスケールで屹立していまして、日射しを強くさせ始めていた晩春の青空に映えていました。牛久駅の東口に近い市役所に車を止めて、牛久の市街地とその周辺を散策しました。
牛久市は東京からおよそ50キロ、常磐線などを利用すれば都心へ約1時間で到達することのできる位置にあります。東京大都市圏の拡大に伴って人口が急増し、1986(昭和61)年に市へと移行しています。市役所に隣接する公園にそよぐ鯉のぼりに季節を感じながら、日本初の本格的ワイン醸造場として知られる牛久シャトーの前を概観しながら、JR牛久駅へ。コンパクトな橋上駅舎の自由通路を介して、市中心部側となる西口へと歩を進めます。西口には再開発ビルである「エスカード牛久」があって、郊外化の波に乗って成長した中小都市の駅前の一般的な表情をそのままに見せていました。駅周辺は概して低層の商業ビルや各種店舗などが立地していますが、一部に中層のマンション建築も認められます。駅の近傍を南北に貫く国道6号を南へと向かいますと、程なくして国道からゆるやかに西に分岐する道路があるのが分かります。このルートがかつての水戸街道筋にあたっていまして、ここからひらがなの「く」の字状に曲がって再び国道6号に合流する付近までが、牛久における伝統的な市街地となります。明治期の地勢図にも、街道に沿って街村状に町が形成されていたことが描かれています。 かつて街道に面して旅籠や茶店などが軒を連ねていたというこのエリアは、水戸街道(水戸道中)の江戸・千住宿から数えて八番目の宿駅であった、旧牛久宿のあった場所にあたります。現在はそうした宿場町を彷彿とさせる町並みはほとんど残されておらず、住宅の区画やわずかに点在している古い昇華建築などに往時を偲ぶことができるのみとなっているようでした。1884(明治17)年に、名主の飯治左衛門宅に明治天皇が宿泊した記念に建てられたという「明治天皇行在所跡」の石碑も現存していまして、冬至の時代背景を今に伝えていました。
旧市街地から西へ、市道を南西方向へ進みます。市街地から外れると周囲は雑木林や農地、点在する住宅地といった風景になって、この地域におけるいわば原風景に近い景観へと移り変わります。市街地の西をバイパス状に貫くようにつくられるとも目される市道の南端を経て、城中町の集落へと入っていきます。得月院や愛宕神社などが佇む家並みは、生け垣や屋敷林などの穏やかな緑に包まれていまして、一見してしなやかな風韻が目に残る光景が広がっていました。牛久沼に望む台地の扇端部に位置するこの場所は、牛久城の遺構を含んでいます。戦国期の城柵として整えられた同城は、藩政期になって牛久藩が立藩されるとその陣屋が置かれることとなり、以降幕末まで牛久城下の藩庁として機能してきました。城跡には山林の中に空堀の跡がはっきりと残されていまして、往時を想像することができるようになっています。 台地と低地の際を多う森を抜けて、牛久沼のほとりへと進みます。牛久沼は樹枝状に大地に食い込んだ低地に水が溜まった形の沼沢で、南北に細長いVの字の形を呈しています。牛久沼という名前ですが、水面は全域が龍ケ崎市域となっています。湖岸には葦原が穏やかに広がり、低地は水田や湿地となって、台地の縁の斜面林へと隣接しています。湖の周囲はあまり開発されていないことから、平地における水辺の美しい景観が比較的よく保たれている印象です。再び林の中を上る小径で台地上に戻り、穏やかな集落と畑と森に覆われた中を進みますと、地域ゆかりの画家・小川芋銭ゆかりの石碑(河童碑)やアトリエ(雲魚亭)などの事物が存在しています。周囲は竹林や暖地性の林がとても美しくて、小波を湛える牛久沼の美景に接して、豊かな創作活動ができたのではないかとも思われました。
その後は、牛久沼周辺の谷地田や斜面林の風景、あやめ園の景色などを訪ねながら快い散策を進めていきました。藤の花やハナショウブがしなやかな青色を染める中、畑地や新規に開発された住宅地などが続く光景を見て、首都圏近郊における田園風景が、住宅地として部分的に供されてきた地域の歴史を肌で感じることができました。 |
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