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関東の諸都市・地域を歩く


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#133 長瀞、秋の七草寺めぐり ~岩畳と山あいの寺院の風景~

 2017年9月9日、前年も参加した長瀞の秋の七草寺めぐりを再訪しました。立秋を過ぎたとは言え、まだまだ日射しの強い陽気の下、レトロら駅舎が印象的な長瀞駅前をスタートしました。秋の七草寺めぐり自体は宝登山神社参道を進み、近傍に僧坊を構える不動寺へと向かいますが、その前に長瀞の景勝地として著名な、岩畳に立ち寄ることとしました。岩畳は荒川が浸食した長瀞渓谷にある、三波川変成帯が地表に露出した岩場のことです。規則的に割れ目が走る特性から、畳のように見えることからその名がついたものと思われます。「秩父赤壁」と呼ばれる断崖とともに、長瀞を象徴する自然景観が形成されています。ライン下りやラフティングなどを楽しむ人々も多く見受けられました。

長瀞駅

秩父鉄道長瀞駅
(長瀞町長瀞、2017.9.9撮影)
長瀞渓谷

荒川・長瀞渓谷の景観
(長瀞町長瀞、2017.9.9撮影)
岩畳

長瀞渓谷・岩畳
(長瀞町長瀞、2017.9.9撮影)
秩父赤壁

長瀞渓谷・秩父赤壁
(長瀞町長瀞、2017.9.9撮影)
長瀞渓谷

長瀞渓谷の急流
(長瀞町長瀞、2017.9.9撮影)
宝登山神社鳥居

長瀞駅前交差点・宝登山神社鳥居
(長瀞町長瀞、2017.9.9撮影)

 長瀞秋の七草寺めぐりは、長瀞周辺の七つの寺院を訪ねて、それぞれの寺院に一つずつ花を咲かせている秋の七草を観賞して季節の風趣に触れるというものです。前回の記事では、撫子の不動寺、女郎花の真性寺、藤袴の法善寺までをご紹介しています。宝登山の麓の風景から、水田や畑も点在するのびやかな集落の中を歩き、豪快な渓谷美の荒川を越えて、3つめの七草寺を参詣した後は、桔梗の寺である多宝寺へと進むべく、再び荒川を左岸へと越えることとなります。高砂橋を渡り、最初の高砂橋交差点を右折して進みますと、、程なくしてその多宝寺の堂宇が目に入っていきます。境内は県道からやや奥まった場所にあって、そこへ向かう参道脇にたくさんの桔梗が植えられています。桔梗は秋の七草とされていますが、その開花は夏の内から本番を迎えていまして、9月初旬には花の盛りを過ぎていることが多いように思います。この日もその畑や境内で見受けられた花はごくわずかとなっていましたが、残った桔梗の花はとても純粋な蒼色を湛えていまして、まだ暑さの残る秋空に涼やかさを伝えていました。

 秋の七草の端緒は、万葉集に収められている山上憶良の2首の歌で、簡単に言いますと、「秋の野には七つの花が咲いており」、「その7つは萩の花 尾花 葛花 撫子の花 女郎花 また藤袴 朝貌の花」であるとするものです。この最後の朝貌(あさがお)の花が、いわゆる現在私たちが朝顔と呼んでいるその花ではなく、桔梗のことであるとする説が有力とされているため、今日秋の七草のひとつに、桔梗を数えていることが通例となっているわけです。よく考えてみますと、これからご紹介する萩の花も晩夏あたりから花を咲かせ始めますので、秋の七草はこうした夏の終わりから秋の初めにかけて盛りを迎える花々の代表的なものをノミネートしたものであると言えるのかもしれません。多宝寺から先は、荒川左岸の丘陵に抱かれる場所に位置する2ヶ寺を訪ねることとなります。国道140号を横断し、なだれかな山々の裾をたどるようにして北へ、納所雲的な雰囲気を残す住宅地域を歩きますと、萩の寺である洞昌院へと行き着きました。洞昌院は石段を上った少し高い位置に本堂を置いているのですが、そこへ向かう参道の周辺にもたくさんの紅白の萩が植えられていまして、そのしなやかな佇まいが秋の爽やかさを表現しているように感じられました。萩に包まれるような本堂の裏手の高台にも多くの萩の花がありまして、そうした美しい萩の花の向こうに、山々に囲まれた長瀞の風景を一望することができました。

撫子

撫子(不動寺)
(長瀞町長瀞、2017.9.9撮影)
水田の見える風景

水田の見える風景
(長瀞町長瀞、2017.9.9撮影)
女郎花

女郎花(真性寺)
(長瀞町本野上、2017.9.9撮影)
藤袴

藤袴(法善寺)
(長瀞町井戸、2017.9.9撮影)
多宝寺

多宝寺前の桔梗
(長瀞町本野上、2017.9.9撮影)
多宝寺と桔梗

多宝寺と桔梗
(長瀞町本野上、2017.9.9撮影)
洞昌院の萩

洞昌院境内の萩
(長瀞町野上下郷、2017.9.9撮影)
洞昌院

洞昌院裏手の高台から望む風景
(長瀞町野上下郷、2017.9.9撮影)

 洞昌院から葛の寺である遍照寺への道のりは、隣接する天満宮の前を通って、小さな川筋を上って山に分け入り、やや急な山道を進む形となります。その小さな谷間の集落には、養蚕農家にしばしば見られる、屋根の上に換気のための櫓状の構造が突き出た民家もあって、地域の歴史を今に伝えていました。キバナコスモスが鮮やかな花を咲かせる小径を進み、急な山道をよじ登るように歩いて、ようやく遍照寺の境内へと到達しました。境内には葛の蔓がいっぱいに繁茂した棚があって、葛の花が野趣溢れる色合いを見せていました。棚の下に入りますと、かすかに甘い匂いが漂っていまして、その微香が秋の季節感を演出しているかのようでした。まだ残暑の熱を残す初秋の空はさらにその静謐さを増していまして、青紫色の葛の花を穏やかに包み込んでいました。

 秋の七草寺めぐりの最後は、尾花(ススキ)の寺である道光寺への踏破となります。洞昌院からの山道とは反対側の谷筋へと降りる車道を、まだ緑の濃い森の中を歩きます。道光寺へは、国道140号に出てひたすらに北へ進んだ後、秩父鉄道の樋口駅の手前で国道を逸れて荒川を三度渡って進むという、およそ3.3キロメートルほどの距離を進まなければなりません。国道沿いの山並みや荒川の渓谷の景観、樋口駅近くの小規模な飲食店のある風景などを確認しながら、荒川右岸へ。高燥な段丘面の平坦地は概ね畑地として利用されていまして、開発の容易性から、その一角には工場も進出しているのも見て取れました。赤い屋根の小さな山門をくぐり、道光寺のこぢんまりとした境内へと歩を進めます。そこには一般的なススキのほか、黄金色の穂が鮮やかなシロガネヨシ(パンパスグラス)もあって、わずかに吹きゆく風に揺れていました。周囲の山並みも実にのびやかな印象で、光量に満ちた秋空にそのしなやかさを重ねているかのようでした。

昔ながらの民家

昔ながらの民家の見える風景
(長瀞町野上下郷、2017.9.9撮影)
遍照寺への山道

遍照寺への山道
(長瀞町野上下郷、2017.9.9撮影)
遍照寺

遍照寺
(長瀞町野上下郷、2017.9.9撮影)
遍照寺の葛

遍照寺の葛
(長瀞町野上下郷、2017.9.9撮影)
樋口駅前

秩父鉄道樋口駅前の風景
(長瀞町野上下郷、2017.9.9撮影)
荒川

荒川の景観(白鳥橋より)
(長瀞町岩田/野上下郷、2017.9.9撮影)
道光寺と尾花

道光寺と尾花(ススキ)
(長瀞町岩田、2017.9.9撮影)
道光寺付近の風景

道光寺付近の風景
(長瀞町岩田、2017.9.9撮影)

 道光寺にて小休止した後は、元来た道を戻り、樋口駅へと進んで、そこで長瀞秋の七草寺めぐりのゴールとなりました。荒川のつくる渓谷の美観と、長閑な山々に抱かれる自然、そして何より珠玉の可憐さに心癒やされる七草の佇まいとを、程よい運動の中で体感できる秋の七草寺めぐりは、まさにこの季節にしか体感することのできない、極上の巡礼であるように思われました。


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