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みすずかる信州絵巻


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#14 旧軽井沢宿を歩く ~宿場町から避暑地として再興した風景~

 2020年10月21日、旧中山道の碓氷峠越えを果たした私は、峠の熊野神社付近の茶店での小休止の後、長野県側の最初の宿駅であった、旧軽井沢へとそのまま徒歩で向かうことにしていました。軽井沢へと向かう前に、見晴台と呼ばれる場所に立ち寄りました。1918(大正7)年、名古屋市の近藤友右衛門氏が独力でこの場所を展望台として整備し、遊覧歩道と観光施設を完備、後に町に寄付したものであるとのことです。この日は晴天ながらも雲がやや多い天候で、群馬県側を含め美しい眺望が広がるというパノラマを十分に見通すことはかないませんでしたが、紅葉が進む山々を心ゆくまで楽しむことはできました。

碓氷峠・熊野神社前の風景

碓氷峠・熊野神社前の風景
(軽井沢町峠町、2018.10.21撮影)
見晴台

見晴台から妙義山、群馬県側を臨む
(軽井沢町峠町、2018.10.21撮影)
見晴台からの風景

見晴台からの風景
(軽井沢町峠町、2018.10.21撮影)
旧碓氷峠遊覧歩道

旧碓氷峠遊覧歩道
(軽井沢町峠町、2018.10.21撮影)

 見晴台での時間の後は、先にご紹介した遊覧歩道に沿って、旧軽井沢を目指しました。遊覧歩道は、落葉広葉樹の穏やかな森の中を、緩やかな勾配で下っていく道筋でした。地理院のオンライン地図や、その他旧中山道を取り扱うサイトを確認しますと、この碓氷峠から旧軽井沢までの旧街道のルートは明確にされるものは少ないようです。そのため、この区間の踏破は、舗装された車道によるか、またこの遊覧歩道を辿るか、ということになるようです。いまだ緑の濃い部分が多い豊かな森を歩きます。小流を鉄橋や吊り橋でいくつか超えて進んだ先に、林の中に隠れるような別荘地へと誘われました。

 藩政期中は、大名の参勤交代などがあり大いに栄えた中山道も、明治期以降はそうした需要も無くなって、一気に寂れて、宿場町も往時ほどの賑わいを喪失することとなりました。軽井沢が現在のような高級な避暑地へと脱皮するきっかけとなった事象の一つが、外国人が軽井沢を別荘地として着目し、避暑地生活を始めたことにあると言われています。軽井沢宿の東の端にある「軽井沢ショー記念礼拝堂」は、そうした歴史を今に伝える建物の一つです。カナダ生まれの英国国教会宣教師A.C.ショー師は、1886(明治19)年より軽井沢で毎夏避暑に訪れて、礼拝所を設けました。現在の礼拝堂は1895(明治28)年建設のもので、訪れる人々すべてに解放される、信仰の場となっています。

旧碓氷峠遊覧歩道上の吊り橋

遊覧歩道上の吊り橋
(軽井沢町軽井沢、2018.10.21撮影)
別荘地の中を進む

別荘地の中を進む
(軽井沢町軽井沢、2018.10.21撮影)
軽井沢ショー記念礼拝堂

軽井沢ショー記念礼拝堂
(軽井沢町軽井沢、2018.10.21撮影)
旧軽井沢宿・つるや旅館前

旧軽井沢宿・つるや旅館前
(軽井沢町軽井沢、2018.10.21撮影)

 宿駅時代に茶屋として創業、明治期以降旅館業に転じた老舗旅館・つるや旅館の佇まいを一瞥しながら、現在は多くの人々が訪れるようになった、旧軽井沢の町並みへと入っていきます。訪れたこの日はコロナ禍ということもあって、人通りはまばらでしたが、土産物店やカフェ、ギャラリーなど、現代的な商店などが建ち並ぶ旧軽井沢の佇まいは、高級リゾートとして成長した、軽井沢を象徴する景観となっています。そのような町並みの中にあっても、神宮寺の門前の風景などにはかつての宿場町の縁を残すような場所もあって、散策するにはとても楽しい場所であるように感じられました。徐々に色づき始めるナナカマドの実の色合いも、森の中の避暑地としてのエッセンスを軽やかに漂わせているようでした。

 明治期に日本各地に多くの西洋建築を残した信徒伝道者として知られるウイリアム・メレル・ヴォーリズの手による軽井沢ユニオンチャーチや、諏訪神社、軽井沢テニスコートなどを訪ねながら、宿場町から避暑地、リゾート地として大きく変貌してきた旧軽井沢を散策しました。軽井沢から草津温泉までを連絡した、草軽軽便鉄道の駅舎跡に建つ商業施設が面する旧軽井沢ロータリーを経て、軽井沢駅前まで続く道路を歩き、夕刻間近の軽井沢駅までようやく到達しました。街路樹の楓もだんだんと色づき始めていまして、仲秋から晩秋へと向かう季節を実感しました。


旧軽井沢の風景

旧軽井沢の風景
(軽井沢町軽井沢、2018.10.21撮影)
軽井沢ユニオンチャーチ

軽井沢ユニオンチャーチ
(軽井沢町軽井沢、2018.10.21撮影)
軽井沢駅前へ向かう街路の紅葉

軽井沢駅へ向かう街路の紅葉
(軽井沢町軽井沢、2018.10.21撮影)
軽井沢駅

軽井沢駅
(軽井沢町軽井沢、2018.10.21撮影)

 瀟洒なデザインの軽井沢駅は、現在では新幹線駅となり、交通の難所として長い間人々の前に立ち塞がってきた碓氷峠を難なく通過し、東京駅からはおよそ1時間半ほどで来ることのできる場所となりました。その新幹線の開業により廃止となった、群馬県側の横川駅までの区間は、現在でもJRバスが路線バスを走らせていて、両駅を連絡しています。この日はこのバスを利用し横川駅に戻ることにしていましたので、バスが出発するまでの間、軽井沢駅周辺の穏やかな風景をしばし、眺めて待つこととしたのでした。

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