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シリーズ京都を歩く

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18.閑寂凛烈の黙 ~2017年京都初冬の風景~
第四十八段 夕景から夜景へ ~冬の夜のライトアップに酔う~

 廬山寺を訪問した後は、河原町今出川に出て、そのまま今出川通を出町柳へと進みました。賀茂大橋上からは賀茂川と高野川の合流点の飛び石と、背後の山々、そして糺の森のたおやかな樹冠とを望むことができました。橋の東詰北東方向には比叡の山並みもすっきりと眺望されます。

賀茂川と高野川

賀茂川(左)と高野川(右)、糺の森(中央)
(賀茂大橋より、2017.12.9撮影)
比叡山を望む

比叡山を望む
(賀茂大橋より、2017.12.9撮影)
京都家裁内の紅葉

京都家庭裁判所内の紅葉
(左京区下鴨宮河町、2017.12.9撮影)
京都家裁内の紅葉

京都家庭裁判所の紅葉
(左京区下鴨宮河町、2017.12.9撮影)
下鴨神社

下鴨神社
(左京区下鴨泉川町、2017.12.9撮影)
糺の森・下鴨神社参道

糺の森・下鴨神社参道
(左京区下鴨泉川町、2017.12.9撮影)

  下鴨神社の名で一般的には知られる賀茂御祖神社へ、森の中の参道へと歩を進めます。下鴨本通に面する京都家庭裁判所では、この日限定で裁判所内と庭の紅葉の見学会が開催されていまして、かつては糺の森の一部であり、糺の森から流出する小川が清らかなせせらぎをつくっています。庭の紅葉もまさに最盛期を迎えていまして、頭上を覆い尽くす鮮やかなカエデのグラデーションが、冬の日差しを受けてステンドグラスのように瞬いていました。下鴨神社へと進む境内の森は、冬の装いへと徐々にその容貌を変化させているところのように目に映りました。糺の森は平安京の時代にまで遡る原生林で、時勢によりその規模は変遷しながらも、今日まで約12万4,000平方メートルという広大な面積を維持しています。穏やかに流れる小川の佇まいや、冬の空気に寄り添うように映える木々の表情は、京都盆地に都が建設された当時の風景を今に写しているようで、四季それぞれに自然に寄り添ってきた日本の風土がどのようなものかを感じさせます。

 下鴨神社を参詣後は出町柳駅へ向かい、京阪電車で東福寺へと向かいました。午後4時が迫り、壮麗な三門が夕日に徐々に照らされる中、境内を穿つ洗玉澗の渓谷一帯の木々は冬枯れの様相を呈していました。一部に残る緋色のカエデの葉は猛々しく過ぎたこの夏の熱量をわずかながらに灯して、冬の帳の内へその玲瓏を治めようとしていました。通天橋から見下ろす渓谷は、鮮やかさを冷たさによってそぎ落とされた、落葉の蘇芳色によって埋め尽くされていまして、春の燃え立つ大地から生物へと移管された生命の力が、再び地中へと返される輪廻の態様を、壮絶に表現していました。空気も徐々に温度を下げて、冬ざれた夕景へと移り変わろうとしていました。

東福寺

東福寺・通天橋を望む
(東山区本町十五丁目、2017.12.9撮影)
東福寺

東福寺・通天橋より洗玉澗を望む
(東山区妙法院前側町、2017.12.9撮影)
東福寺

東福寺・落ち葉に木の影が伸びる
(東山区本町十五丁目、2017.12.9撮影)
東福寺三門

東福寺・三門
(東山区本町十五丁目、2017.12.9撮影)
ライトアップされた渡月橋

ライトアップされた渡月橋
(右京区嵯峨中ノ島町、2017.12.9撮影)
嵐山のライティング

嵐山のライティング
(右京区嵯峨天龍寺芒ノ馬場町、2017.12.9撮影)

 東福寺での冬の肖像を目にした後は、JRで京都駅へと戻り、そのまま嵯峨嵐山駅へと足を伸ばしました。日が傾いてだんだんと暗くなり始めた渡月橋は午後5時、一斉にライトアップされて、嵐山も雪化粧したかのようなスポットライトを浴びて、冬の情景がそこに表出されていました。山並みは短い時間の経過の中で目まぐるしくその容貌を変化させて、漆黒と練色とが混じり合う、この上のない冬の灯火によってドレスアップされていきました。「嵐山花灯路」と呼ばれる、毎年恒例のライトアップイベントは、紅葉の季節が盛りを過ぎる12月上旬に、嵐山・渡月橋周辺と嵯峨野の竹林の道一帯などで開催されています。嵐山の芋を洗うような人の流れに押されるように、野宮神社から嵯峨野の竹林の道へと歩を進めます。春の温かい空気のような刈安色に、そして冬の凛とした朝の冷気のような雪色に包まれた竹林は、すっかりと闇夜の中に置かれた風景の中に、確かな存在感を持って、玄冬へと人々を導いているように思われました。

 京都駅構内に毎年飾られる、巨大クリスマスツリーの灯りに目を楽しませ後は、京都駅南の東寺(教王護国寺)のライトアップも観賞することとしました。時刻は既に午後8時前となっていまして、暗夜に燦然と照らされた五重塔が、周りに晩秋の名残を宿すカエデの葉の橙色と呼応するように輝いていたのがたいへん印象的でした。平安京創建時に、都の正門として東西に設けられた寺院(もうひとつは西寺、現存せず)として創始された東寺は、都市としてのこの町の落成から存立し、現在に至るまでこの町のシンボルの一つとして、その命脈を保持してきました。その千年の時間の流れを思うとき、冬の夜の一時、光彩を一心に浴びる東寺の堂宇の輝かしさは、何物にも代えがたい至宝であるように目に映りました。

嵯峨野 竹林の道

嵐山花灯路・嵯峨野竹林の道
(右京区嵯峨天龍寺芒ノ馬場町、2017.12.9撮影)
嵯峨野竹林の道

嵯峨野竹林の道
(右京区嵯峨天龍寺芒ノ馬場町、2017.12.9撮影)
嵯峨野・落柿舎付近

嵯峨野・落柿舎付近
(右京区嵯峨小倉山緋明神町、2017.12.9撮影)
京都駅構内のツリー

JR京都駅構内のツリー
(下京区東塩小路町、2017.12.9撮影)
東寺

東寺のライトアップ
(南区九条町、2017.12.9撮影)
東寺

東寺・金堂
(南区九条町、2017.12.9撮影)

 この日の京都は、冬晴れに概ね恵まれながらも、最高気温は10度に届かず、底冷えのする、京都らしい冬の気候でありました。その肌を刺すような天候の下めぐった諸地域の姿は、沈黙から歓喜へと進む季節の光景をふんだんに感じさせるもので合ったように思います。そして、時代の変遷の中で巧みに新陳代謝を果たしながら、唯一無二の都市基盤を完成させてきた、この町の圧倒的な気概を随所に含ませる情景でもありました。


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