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シリーズ京都を歩く

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13.西山・夕照の地を歩く
第三十五段 大原野神社とその周辺 ~竹林の里をめぐる~

  2013年12月7日、丹波篠山散策を終えた私は列車で大阪方面へ戻り、その足で夕刻の京都へ向かいました。一度訪れたことのある、清水寺の夜間拝観を再訪しました。黄昏から夕闇へ、刻々と過ぎる時間の中で、照らし出される堂宇と紅葉、そして寺から俯瞰する京都の町の夜景は筆舌に尽くしがたい美しさで、季節ごとに繊細な輝きを見せるこの町の姿に改めて酔いしれました。例年楽しんでいるJR京都駅のクリスマスツリーをしばし眺めた後は、投宿していた新大阪に戻ったのだろうと記憶しています。

清水寺

清水寺
(東山区清水一丁目、2013.12.7撮影)
京都市街地夜景

清水寺から眺望する京都市街地夜景
(東山区清水一丁目、2013.12.7撮影)
清水寺

ライトップされた清水寺
(東山区清水一丁目、2013.12.7撮影)
清水寺

ライトアップされた清水寺
(東山区清水一丁目、2013.12.7撮影)
京都駅

JR京都駅
(下京区東塩小路町、2013.12.7撮影)
京都駅・クリスマスツリー

JR京都駅・クリスマスツリー
(下京区東塩小路町、2013.12.7撮影)

 さて、今回の本題は、翌12月8日に訪問した、西山エリアを歩いた記録です。京都盆地は東、北、西の三方を山に囲まれる形となっており、それぞれ東山、北山、西山と称されます。前二者がまとまった山塊をなし、京都市街地に接して多くの名刹や古社、名勝があることから観光地としてもよく知られているのに対しまして、もう一つの西山は嵐山に近い地域を除けば、あまり多くの人々が訪れる場所であるとは言えないかもしれません。しかしながら、そうした土地であるからこそ、なだらかな山並みに抱かれた古き良き京の郊外たる風景に出会うことができますし、魅力的なお寺の佇まいに触れることもできます。そんな期待を抱きながら、JR向日町駅よりバスで西山散策へと出発しました。

 南春日町バス停で下車し、のびやかな田園風景に家々が点在する集落を歩きます。土蔵や瓦屋根の向かいながらの佇まいを見せる家屋、木塀や生垣がつくるみずみずしい風景がたいへん快い印象です。そうした景色の背後にはなめらかなシルエットを呈する西山の山々があって、それに向かって進むと緩やかに上っていることを実感します。石造の道標が歴史を物語る一帯をさらに辿りますと、この地域の地名を冠した大原野神社の鳥居の前へと到達しました。大原野神社は、784(延暦3)年、桓武天皇が平城京から長岡京へ遷都した際、奈良春日大社の分霊をこの地に勧請したことに端緒を持ちます。850(嘉祥3)年には文徳天皇により社殿が造営され、地名に因み大原野神社と称されました。こうした由来から、大原野神社は「京春日」の別称でも呼ばれます。春日大社と同形式となる一間社春日造の社殿は、涼やかな社叢に抱かれながら、その壮麗な姿を散り行く紅葉の中に浸していました。

集落景観

南春日町バス停付近の集落景観
(西京区大原野南春日町、2013.12.8撮影)
大原野神社

大原野神社鳥居前の景観
(西京区大原野南春日町、2013.12.8撮影)
大原野神社

大原野神社
(西京区大原野南春日町、2013.12.8撮影)
勝持寺仁王門

勝持寺仁王門
(西京区大原野南春日町、2013.12.8撮影)
勝持寺参道

勝持寺参道
(西京区大原野南春日町、2013.12.8撮影)
勝持寺

勝持寺
(西京区大原野南春日町、2013.12.8撮影)

 丘陵地の山裾に鎮座する大原野神社は、美しい紅葉でも知られます。訪問時はやや盛りを過ぎていた印象で、鮮やかな朱色に染まるカエデの分量は、枝に残るものが半分、参道に敷き詰められたものが半分といった感じで、まさにそれは命燃える赤色に包まれる絵画のような色彩でした。西山は鬱蒼とした竹林と、そこから産する良質の筍とでもその名を馳せていますが、大原野神社の周りにもそうした当地の地域性を反映するようにたくさんの竹が豊かな緑色をはびこらせていまして、鮮烈な秋色から冬枯れへ移り変わる森と好対照を見せていました。

 落葉したしたカエデが積もる石段を踏みしめながら、「花の寺」として親しまれる勝持寺(しょうじじ)へ。歌人としても著名な僧・西行がこの寺で出家したと伝えられ、その西行が手植えしたといわれる西行桜は、この寺を「花の寺」と称する所以となりました。境内には多くの桜が根付いていまして、古来より花の名所としても広く知られるようになりました。初冬の境内は訪れる人もほとんどなくて、間近に迫る真冬に向き合うような静寂と、わずかな光をまとった鈍色の空に修飾された紅葉の慎ましやかな色合いとが、いわゆる「もののあはれ」として表される、この上ない無常観と自然の情趣とを体現しているように思われました。
 
大原野神社付近の竹林

大原野神社付近の竹林
(西京区大原野南春日町、2013.12.8撮影)
正法寺

正法寺
(西京区大原野南春日町、2013.12.8撮影)
小塩山周辺の山並み

小塩山周辺の山並みを望む
(西京区大原野南春日町付近、2013.12.8撮影)


東海自然歩道沿線の風景
(西京区大原野南春日町、2013.12.8撮影)
東海自然歩道・集落景観

東海自然歩道沿線の集落景観
(西京区大原野石作町付近、2013.12.8撮影)
竹林の間を進む道

竹林の間を進む道
(西京区大原野石作町付近、2013.12.8撮影)

 勝持寺は「小塩山」と号します。小塩山は、西山の丘陵を構成するピークの一つの名前でもあります。勝持寺から大原野神社の鳥居前まで戻り、南に隣接する正法寺を訪ねた後、この小塩山の山麓を縫って山間へと分け入る東海自然歩道を跡付けながら、いくつかの古刹をめぐる踏破へと歩を進めました。西山地域は「洛西地域」とも呼ばれます。大原野という地名が彷彿させるように、おおらかに平らかな原野が展開していたこの一帯は、長らく京都市街地の郊外における農村地域でした。その一方で、この地域は高度経済成長期を経て「洛西ニュータウン」開発をはじめとした都市化が急速に進んで、近年は京都縦貫自動車道が縦断するなど、その表情を大きく変貌させてきました。自然歩道を歩きながら、昔ながらの水田と農村的集落とが展開する景色の向こうに、こうした現代的な都市的景観とが遠景に重なる様子を確認しました。そうした場面に出会いながらも、都市化に起因する現代的な土地利用はあくまでも従であって、この地域が長い年月を通じて培ってきた、竹林やのびやかな丘陵などが形づくる風景が主であるという見方は最後まで変わることはなかったように思います。自動車道の下をくぐり、そうした美しい歴史を感じさせる集落を抜けて、小塩山の山懐へと進んでいきました。

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