旧奈良街道、醍醐寺付近の町屋 （伏見区醍醐中山町付近、２００７．７．１４撮影）	旧奈良街道、醍醐寺門前の景観 （伏見区醍醐東大路町、２００７．７．１４撮影）
醍醐寺境内 （伏見区醍醐東大路町、２００７．７．１４撮影）	醍醐寺・金堂 （伏見区醍醐伽藍町、２００７．７．１４撮影）

醍醐寺・五重塔 （伏見区醍醐伽藍町、２００７．７．１４撮影）	醍醐寺境内・雨中の緑 （伏見区醍醐伽藍町、２００７．７．１４撮影）
旧奈良街道・醍醐寺門前付近の町屋 （伏見区醍醐和泉町付近、２００７．７．１４撮影）	旧奈良街道・石田大山交差点付近 （伏見区石田大山町、２００７．７．１４撮影）

　総門をくぐり、まず国の特別史跡・特別名勝となっている庭園で名高い三宝院（さんぼういん）へと向かいます。醍醐寺は長い歴史の中で火災に遭い、中世には前記の五重塔を残して多くが消失、荒廃の状態にあったのだそうです。1598（慶長3）年春に豊臣秀吉が「醍醐の花見」を開いたことをきっかけとして三宝院や金堂などが再建され、現代へと受け継がれてきました。国宝の表書院から眺める庭園は隅々まで手入れの行き届いた見事な造形で、配布される庭園の見取り図には石ひとつひとつが丁寧に描きこまれているほどです。再び激しさを増してきた雨の中、水と緑とが絶妙に配置された庭石とあいまって、華やかながらも、自然な美しさに彩られた空間が演出されていました。

　三宝院の庭園にしばし見とれていた後、広い参道を歩いて境内を散策します。国宝の金堂、五重塔の佇まいもあることながら、私が惹かれたのは雨にぬれる緑の鮮やかさでした。青空の下、日光に透かしてみる青葉も見ごたえがありますが、天からの慈雨を一身に受けてしっとりとした輝きを見せる木々の緑も、たいへんに印象的でした。国土の多くを山々に囲まれ、雨や雪が多くそれらの恵みを受けながらも自然災害とも隣り合わせの環境の中、歴史を紡いできたこの島にあって、雨に佇む緑の美しさは特別な意味のある色彩ではないのかと感じさせるほどの、とびきりの美しさであった思います。池と緑に寄り添う弁天堂の姿を確認し、醍醐寺を後にしました。雨は強弱を繰り返しながら降り続いていました。

日野道（府道日野薬師線）沿線の宅地化 （伏見区日野西風呂町、２００７．７．１４撮影）	日野薬師入口の景観 （伏見区日野西風呂町、２００７．７．１４撮影）
日野薬師（法界寺） （伏見区日野西大道町、２００７．７．１４撮影）	JR六地蔵駅周辺の景観 （宇治市六地蔵、２００７．７．１４撮影）

　昔ながらの姿を今に伝える旧奈良街道筋は、醍醐寺門前も穏やかに通過しながら南へ、現代の町並みの中を進んでいきます。現代の「奈良街道」と合流するあたりになりますと、自動車の通行量は果たして多くなって、歩道スペースが十分でない道路は、歩いて通過するには難渋する場所もありました。醍醐地区南部から石田地区へ向かう段まで来ますと、そこは道路交通を志向した郊外型の店舗がゆったりと集まる、現代の都市郊外の只中でした。西を通過する外環状線沿線までの間に、大型スーパーマーケットなどの商業機能が集まっていまして、六地蔵駅周辺までがちょっとした商業核になっているような印象です。この商業地域を取り囲むエリアでは宅地化も著しいようで、醍醐における最後の訪問先である日野薬師（法界寺）までの道程も、建設途上の住宅地を見かけました。通行車両も相変わらず多い様子で、雨のいよいよ強くなってきたこともあり、日野薬師訪問以降、六地蔵駅まではバスを利用しました。

　日野薬師への入口となる石田大山交差点の一角には、「乳薬師　日野法界寺」と刻まれた石碑があり、ここだけは「日野の里」とも呼称された穏やかさを彷彿とさせます。日野薬師方面へ右折する角には火の見櫓が目印のごとく建てられていたのも、この地域の歴史を感じさせます。住宅が立ち並ぶ中にひっそりと穏やかに佇む日野薬師にて、国宝の阿弥陀堂と阿弥陀如来坐像を拝観し、往時に思いを馳せました。日野薬師は1051（永承6）年、日野資業（ひのすけなり）が薬師堂を建立したことが起こりとされ、多くの堂宇が立ち並んでいたものの、戦国時代に衰微、阿弥陀堂がかつての姿を今に伝えているのだそうです。大都市近郊で住宅地化が進む地域であっても、奥深い歴史のつまった文化財が豊かに存在しているのも、この地域ならではのことではないかなとも思われました。