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関東の諸都市・地域を歩く
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#145 八潮駅とその周辺を歩く ~新しい鉄道とともに変わる町並み~ 2018年4月29日、つくばエクスプレス八潮駅を訪れ、八潮市の散策を始めました。2005(平成17)年8月、つくばエクスプレスの開業に伴い誕生し八潮駅は、これまで鉄道駅のなかった八潮市における利便性を一新させました。秋葉原へ直通する鉄道路線は、八潮駅周辺を急速に市街化させ、人口の再流入を加速化させているようです。
八潮市は埼玉県の南東端に位置する、人口およそ9万人のまちです。南は東京都足立区に隣接するものの、前述のように市内を通過する鉄道がなかったことから、開発が行われやすい低地帯に位置しながらも、近年の人口の伸びは緩やかなものとなっていました。八潮市とその周辺の地域は、東隣の三郷市との境界となっている中川をはじめ、利根川が東京湾に注いでいた頃の旧流路やその支流などが形成した自然堤防と、その間の後背湿地が連続する地形が広がります。八潮駅の立地する場所はそうした自然堤防の間の低地帯にあたり、周辺よりも土地が低いことから主に水田として利用される場所でした。駅の回りには大型商業施設である「フレスポ八潮」をはじめ、複数の高層マンションが屹立して、首都圏へのアクセス性の向上による都市化が急送に進展している様子が見て取れます。 南口側に出て、区画聖地事業が進み徐々に宅地化・商業地化の変化を見せ始める仰せ地区を東へ進み、新興の住宅地域を抜けますと、中川の河川敷を利用してつくられた大瀬運動公園の端まで到達しました。バス路線にもなっている市道の脇から中川の堤防上を進む「中川遊歩道」へと入り北(上流方向)へと歩きます。穏やかな春空が広がっていたこの日は、河川敷の草木は初夏を思わせる日射しを受けてこの上ないきらめきを放っていまして、路傍の花々や菜の花やサヤエンドウなどの畑の作物、遺影の庭先の花木など、すべてが春の歓びをいっぱいに表現するかのような、まさに百花繚乱の旋律を奏でているかのようでした。堤防の右側(川側)は基本的に農地で、反対側は堤防上を指向した古くからの集落に、新しい住宅が建設されたような格好で、家遺影の間には畑もあって、伝統的な農業集落としての出自を感じさせる景観が続いていきます。中川は、八潮市の辺りまで潮の干満の影響がある、いわゆる感潮域であり、そのため淡水域・汽水域双方の特徴に対応した生態系が存在していることが、遊歩道に設置された表示により説明されていました。水辺における環境学習等に供する「中川やしお水辺の楽校」なる親水公園もあって、多様な河川環境に親しむことができる施設も整えられていました。
みずみずしい河畔林と川とが豊かな風景をつくる水辺の楽校での小休止後、遊歩道を離れ、西蓮寺や氷川神社などが佇む集落内へと歩を進めて、バス通りを北へと辿りました。首都高速三郷線の下をくぐり、さらに歩きますと、県により「ふるさとの森」の指定を受ける「恩田屋敷林ふるさとの森」など、地域の歴史を感じさせる緑地帯もあって、流通関係の事業所などが立地しながらも、それらの歴史的資産がこの地域の成り立ちを想起させています。また、氷川神社や久伊豆神社も同名の社が複数存在していて、大宮にある氷川神社や越谷の久伊豆神社をそれぞれ勧請したと思われる古社が認められることが、より広域的な地域の交流圏や信仰圏といった人々のつながりの範囲をも思わせました。 二丁目地区から鶴ヶ曽根地区、そして八條地区へと進むにつれて、徐々に昔ながらの集落景観を基礎とした風景の比重がより増してきまして、都市化の波を受ける前のこの地域の原風景を実感させます。古くから多くの河川が乱流し、その一方で低湿地帯で排水がままならない大地が広がっていたこの地域では、利水・排水のための用水路が多く作られて、そうした大地を良好な美田へと作り替える努力がなされてきました。現在でもそうした用水路の多くが残されていまして、近年は集中豪雨の際の氾濫も懸念されることから、八潮では排水機場が整備され、中川などの大河川へ、より効率のよい排水を行えるよう対策も講じられているようでした。
東京外環道をくぐり、進んだ先には江戸後期に改修された山門や観音堂が残る大経寺や、藩政期における名主住宅としては県内でも最古級である和井田家住宅(国重文)などの史跡もあって、八潮市における地域の記憶をより濃厚に残す風景を確認することができました。その後は路線バスを乗り継いで八潮駅から草加駅へと進んでこの日の活動を終えて帰路に就きました。藩政期、おそらく利根川東遷事業以降、新田開発が活発となってからの、この地域における発達史を思わせる景観と、首都圏からの郊外化によりリノベーション冴える現代的な都市的な風景とを、鮮やかに確認することができる、八潮市訪問となりました。 |
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