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俳句の中の地域

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#10 権現堂堤・桜と菜の花の風景(埼玉県幸手市) (2023年3月20日執筆)

 
2008年4月5日、夕方にふと思い立ち、電車に乗って幸手市の権現堂堤を訪れました。かつての利根川の支流の権現堂川の水害抑止のためにつくられた堤上に桜が植えられて、菜の花畑の黄色とと絶妙なコントラストを見せる、関東でも屈指の桜の名所です。なお、「アケルナル」とは、星座の一つ、エリダヌス座の一等星の名前です。日本では見える場所は少ない星ですが、エリダヌスとは天を流れる川の名前で、アケルナルはその南端にあって、「川の果て」という意味の星です。堤から川へ発想を飛ばし、星座を彩る川と夜桜との取り合わせを思いついた次第です。

 花明かり 水面を照らす アケルナル


権現堂堤の桜 
権現堂堤の桜(2008.4.5撮影)


#9 河津桜と河津川の風景(静岡県河津町)
 (2023年3月19日執筆)

 2022年3月3日、伊豆半島南東岸の河津町を訪れました。河津川沿い河津桜の並木は折しも満開で、春空の下、美しい桜色の風景を楽しむことができました。周囲の山々も少しずつ芽吹きを迎えていまして、暖地系の常緑樹の輝かしさも相まって、温暖な当地の風土を演出していました。天城山系から流れ来る河津川の水の色は気持ち群青色を呈していまして、空色とのコントラストが印象に残りました。

春暖や 御空より濃き 川の色 

河津桜と河津川の風景 
河津桜と河津川の風景(2022.3.3撮影)



#8 大阪城公園・梅園と大阪城(大阪市中央区) (2023年3月18日執筆)

 
2014年3月8日、京都、大阪、そして奈良と回りました。大阪では大阪城公園の梅園に立ち寄り、今まさに満開の梅の花を観賞しました。内濠の東側にたくさんの梅が植えられていまして、曇り空のこの日の夕方でしたが、かぐわしい香に包まれるような梅はとても気品に溢れていました。その梅の波の上にあでやかに屹立する大阪城の天守も、実にしなやかな佇まいを見せていました。

梅林の 幹の黒さよ 天守建つ 

大阪城公園・梅園 
大阪城公園・梅園(2014.3.8撮影)


#7 南部梅林からの太平洋眺望(和歌山県みなべ町)
 (2023年3月17日執筆)

 
2007年2月17日、はじめて和歌山県の南部梅林を訪れました。南高梅の産地であるこの梅林は、観賞用の梅林ではなく、実際に梅を収穫するために植えられた果樹園の梅が、早春の丘陵地いっぱいに咲き誇ります。より良質の梅を育むために、地域で数々の労苦や手間暇が積み重ねられてきて、今日の一大産地が形作られてきたことを思いますと、眼前の光景はとても貴いもののように感じられます。丘の上から梅の木越に眺めた太平洋の海原は、どこまでも静穏で、南部の大地に春の暖かさを届けていました。

 梅林の先の 太平洋は凪ぐ

南部梅林から太平洋を望む 
南部梅林から太平洋を望む(2007.2.17撮影)



#6 早春の渓流と「祖谷のかずら橋」(徳島県三好市)
 (2023年3月16日執筆)

 
1999年3月、人生ではじめて四国・徳島県に足を踏み入れた際に訪れた場所の一つがこの「祖谷のかずら橋」でした。斜面に張り付くようにしてある集落と、階段状の畑地、そして奥深い山々に、四国は海に面しながらも、その一方で急峻な山々の中に生きる文化の存在を実感したのでした。現在では観光資源となっているかずら橋も、そうした風土の中で育まれた歴史的な資産のひとつなのでしょう。俳句はこの地域でかつて行われていた農法に注目し詠んでみました。

 焼畑つくりし日 祖谷のかずら橋

祖谷のかずら橋 
祖谷のかずら橋(1999.3.12撮影)
※撮影当時は徳島県西祖谷山村でした。



#5 萩城跡・早春の風景(山口県萩市)
 (2023年3月15日執筆)

 
2000年3月18日から19日にかけて、山口県の萩や秋吉台などを訪れました。拙稿の記録を読むと、18日は晴天でしたが、萩を訪れた19日は雨模様であったようです。萩は長州藩の政庁が置かれた城下町であったことで知られます。多くの幕末の志士や近代以降は総理大臣を輩出した気風を感じる町並みは今、「小京都」として現代の市街地にも趣を与えています。その一方で、36万石を擁した一大都市としての迫力はやや弱まっているようにも思え、そういった気分を春の雨に託しました。

大藩を継ぐ 小京都に春の雨 

萩城跡と指月山 
萩城跡と指月山(2000.3.19撮影) 


#4 新宿副都心・ビルと河津桜の見える風景(東京都新宿区)
 (2023年3月14日執筆)

 
2020年3月21日、写真からも分かるとおりのうららかな陽気のこの日、新宿駅周辺を歩きました。商業施設や歓楽街の集まった新宿駅周辺から西、超高層ビル群のある西新宿のエリアは、現代的なビル街となっている一方、ほぼビジネス街として機能している地域性もあって、平日よりは土日、そして日中よりは夜間は、人口が大きく減少する、都会にあっては極めて特殊な人口動態と呈する場所となっています。空は明るいのに人の往来が少ない時間帯のことも、満開のこの河津桜は見てきているのかもしれません。

 ビル街の 夜間人口 知る桜

 新宿副都心と河津桜
新宿副都心・ビルと河津桜(2020.3.21撮影) 


#3 山辺の道の春の風景(奈良県天理市)
 
(2023年3月13日執筆)

 
2009年3月7日、奈良から桜井にかけて、大和青垣と呼ばれる山々の裾野を南北に貫く古道である「山辺の道」を歩きました。この日歩いたのは、その南半分にあたる、天理市から桜井市にかけての部分。田園の中、実に快い散策を楽しむことができるはすなのですが、折しも早春のこの季節は花粉症がピークを迎えつつある時季でもあり、春の穏やかな空とは裏腹に、目をこすりながら歩くと言った感じになってしまったのを覚えています。道自体は、小さな丘陵を超えたり、古墳群をかすめたり、美しい集落を貫いたりと、実に奈良盆地らしい風景にであえるすてきなコースです。
 
春の空 目を細めゆく 山辺の道

 山辺の道の春の風景
奈良県天理市・山辺の道の春の風景(2009.3.7撮影)


#2 和紙の里で見つけたカタクリ(埼玉県小川町)
 (2023年3月12日執筆)

 
2019年3月24日、早春から仲春へ、まさに春本番を迎えた埼玉県小川町を訪れました。関東山地の東麓、比企丘陵に抱かれた小盆地にある小川町は、和紙の里としても知られます。町を流れる槻川沿いの森では、写真のようなみずみずしい花弁を開かせたカタクリの花が斜面いっぱいに咲いていまして、季節の移り変わりを春空に告げていました。里山は一歩一歩、ゆっくりとかつ着実に、春色へとその装いを変えてきているようでした。

 瀬のリズム空へ 片栗の花ひかる

 埼玉県小川町・カタクリの花
埼玉県小川町・カタクリの花(2019.3.24撮影)

#1 驟雨の「奇跡の一本松」(岩手県陸前高田市)
 (2023年3月11日執筆)

 2019年4月30日、平成最後の日の夕方、陸前高田市の奇跡の一本松を訪れました。東日本大震災の被災を象徴する事物の一つであるこの「奇跡の一本松」は、この日の朝から降り始めた冷たい雨の下、ただしずかにこの地域を襲った未曾有の災害の史実を物語っていました。あの日の雨の冷たさは、平成最後の瞬間と言うこともあり、今でも脳裏に印象に残って離れない記憶となっています。東日本大震災からちょうど12年となるこの日に、祈りを込めて俳句を詠みたいと思います。

 残る花 奇跡の一本松に雨

 陸前高田市の奇跡の一本松
 岩手県陸前高田市・奇跡の一本松(2019.4.30撮影)

                                                  

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