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東京優景 〜TOKYO “YUKEI”〜

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#33 羽村市街地概観 〜取水堰とその周辺〜 (羽村市)

 2010年4月3日、東京都心・千鳥ヶ淵から始まった桜を求めての彷徨は、多摩川が関東山地から平野に出て上流から中流へと遷移するあたりに展開する羽村市へと至りました。JR羽村駅から西へ、旧鎌倉街道のひとつとされる小道を通りながら、多摩川を目指します。1653(承応2)年、江戸市中に水を供給する玉川上水の取水口として作られた羽村取水堰は、現在でも設置当時の「投渡し」と呼ばれる土木技術が継承されている、現役の取水口です。取水堰周辺の玉川上水土手や多摩川の堤防などは桜の名所として知られています。取水堰の近くには、玉川上水の掘削に功のあった玉川兄弟銅像や、上水完成時に水道の守護神として建立された玉川水神社、上水の管理のために設置された幕府の陣屋跡などの事物が往時を物語っています。

羽村堰の桜

羽村堰・玉川上水土手の桜
(羽村市羽東三丁目、2010.4.3撮影)
羽村取水堰

羽村取水堰
(羽村市羽東三丁目、2010.4.3撮影)
玉川水神社

玉川水神社
(羽村市羽東三丁目、2010.4.3撮影)
堤防の桜

羽村堰近くの堤防上の桜
(羽村市羽中四丁目、2010.4.3撮影)

 羽村市は、既存の市を含む合併により発足した西東京市やあきる野市を除けば、東京都で最も新しい市です。1991(平成3)年11月に、当時の西多摩郡羽村町が単独で市制を施行しています。現在でも都内の市では最小の人口である同市域は、高度経済成長期以降にベッドタウン化などによる人口増が認められるまでは多摩川の台地上に畑地が広がる土地利用が卓越していまして、河岸段丘崖を一段降りた低地には水田も切り開かれていたようです。現在でも、主にJR青梅線沿線で、首都圏郊外における住宅都市然とした市街化が進行しつつも、ひとたび路地を入るとかつての農村的な風景を彷彿させるような畑地や集落景観も認められて、都市と自然とのバランスのよさを随所に感じました。

 取水堰近くの桜はかなり花が開いてきており、もうすぐ満開という状態でした。都心との気温の差を実感します。水上公園を右手に土手を進み、その後家々が立ち並ぶあたりから堤防下へ降りて、背後の水田地帯へと足を踏み入れました。根搦(がら)み前水田と呼ばれる水田は、春先にはチューリップ畑となるようで、一面に植えられたチューリップは順調に葉を伸ばし、一部では花もしている状況でした。彼方の段丘崖に沿った林の間にたおやかに展開する田んぼは鮮やかなグラデーションに彩られる春を間近に、徐々にその姿を変えているところのようでした。夏は豊穣の稲田となって、さらにその輝きを増すこととなるのでしょう。

根搦み前水田

根搦み前水田の景観
(羽村市羽加美四丁目、2010.4.3撮影)
一峰院

一峰院鐘楼門
(羽村市羽加美四丁目、2010.4.3撮影)
間の坂

間の坂の景観
(羽村市羽中三丁目付近、2010.4.3撮影)
JR羽村駅前(東口)

JR羽村駅前
(羽村市五ノ神一丁目、2010.4.3撮影)

 一峰院の鐘楼門を一瞥しながら、田んぼの美しい風景を目に焼き付け、「間の坂」と呼ばれる段丘崖の坂を上って、台地上へと歩を進めます。崖線(「ハケ」と呼ばれます)に沿った林に連接するように木々を配した家々や点在する畑地の間を上る坂道は中世において2つの豪族の領地の境目であったことからその名がついたのだそうです。坂を登りきったあたりの地名は「天竺」であったそうで、運動公園の名前にその名を残していました。

 JR線を渡った先は整然とした街路を擁する市街地となっていて、相対的に新しい建物が多く、新興の市街地であることを示していました。高燥の台地上は水が得にくく、主に畑地が広がっていた土地は、区画整理が容易であったのでしょう。市役所前の道路を南東に歩き、夕暮れ迫るJR羽村駅前へと戻りました。後からその存在を知ったためフィールドワーク時には見過ごしてしまったのですが、駅近くの五ノ神神社には、武蔵野に数多く掘られたらせん状に土地をくり抜いた底に井戸を掘るという、「まいまいず井戸」が残されています。

 東京郊外の住宅都市としての顔を持ちながら、武蔵野台地の持つ地勢的な特徴を多く残す羽村市は、そうした穏やかな景観を気軽に歩きながら楽しむことのできるたいへん魅力的な町であるように思います。


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