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みすずかる信州絵巻


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#2 安曇野を行く 〜さわやかな風景に酔いしれる大地〜

 2011年夏、折しも放送されていたNHK朝の連続テレビドラマ小説「おひさま」の舞台となっていた安曇野まぶしい風景を見たいと思い立ち、8月28日に日帰りで出かけました。大町市美麻の中山高原では、純白のそばの花が見渡す限りの斜面を埋め尽くしていました。夏空は輝かしいほどの白い雲をさわやかに宿して、白と緑とがにじむように重なり合う大地に光と影を交互に投げかけていました。

中山高原

中山高原・コスモス
(大町市美麻、2011.8.28撮影)
中山高原

中山高原・そば畑
(大町市美麻、2011.8.28撮影)
中山高原

中山高原・そばの花
(大町市美麻、2011.8.28撮影)
大王わさび農場

大王わさび農場
(安曇野市穂高、2011.8.28撮影)

 大王わさび農園の湧水が美しい風景を確認した後JR穂高駅前で自家用車を下車し、レンタサイクルで安曇野を回ってみることとしました。北アルプスの山々に向かってなだらかに傾斜する大地は扇状地を形成していて、JR大糸線が結ぶルートあたりは伏流水が湧き出す湧水帯(安曇野わさび田湧水群)を生み出しています。さやかな水田地帯が連続する坂道を自転車で走らせながら、扇状地を形成する河川の一つである烏川のほとりにある国営アルプスあづみの公園へ。烏川が山間から平野部へ出る、扇状地の扇頂部に位置しています。付近には藩政期に一帯の大庄屋であった山口家の庭園もあり、どこまでも広がる田んぼの風景が新田開発の歴史を体現しているように感じられます。

 扇状地は一般的に水は染み込んでしまうために耕地には向かない土地です。江戸時代に入るとそうした土地でも用水を引くなどして耕地化されて、水田面積は格段に拡大していきました。安曇野のなだらかな水田地帯でもおそらくこうした開発が行われて、こうした庄屋が地域を統括していたのでしょう。現在はこうしたさわやかな農村風景のほか、風光明媚な土地柄にひかれて美術館が立地し、地域の魅力となっているようです。

安曇野の風景

安曇野の風景
(安曇野市穂高、2011.8.28撮影)
安曇野の風景

安曇野の田園風景
(安曇野市穂高、2011.8.28撮影)
大庄屋山口家

大庄屋山口家
(安曇野市堀金烏川、2011.8.28撮影)
常念道祖神

常念道祖神
(安曇野市堀金烏川、2011.8.28撮影)

 長野県の風土を象徴する事物の一つに道祖神があります。道祖神は石造の塑像で全国的に分布するものですが、長野県、中でも安曇野はその宝庫と言われているようです。「村の守り神」として、五穀豊穣、無病息災、子孫繁栄を祈願するもっとも身近な神として地域の主要部や交差点などに置かれています。安曇野では双体道祖神と呼ばれる男女の人物が並び立つ形状が一般的で、手をつないだり、恥ずかしそうに寄り添ったりと、さまざまな表情を見せています。公園から穂高駅方面への帰路立ち寄った「常念道祖神」は桜の木の下、北アルプスの山々を望む場所にたたずんでいました。笑顔で手を取り合う男女の姿は、末永い地域の発展と村民の和合を願ったものであるように思われました。夏空は白雲をいっぱいに含ませて北アルプスの峰を望むことはできませんでしたが、どこまでも広がるような田園地帯の傍らにひっそりと置かれた道祖神のほほえましい姿は見る人の心を和ませてくれます。

 柏矢町駅前を過ぎ、東へ向かいますと万水(よろずい)川のたもとへ行き着きます。川沿いの土手には大王わさび農場付近まで「せせらぎの小路」という散策路が整備されています。川は豊富な水を流していて、北アルプスへの眺望が利く安曇野らしい景観を楽しむことのできるルートです。水田の間を抜けたり、木立の中を抜けたりと、四季折々の美しい風景が楽しめそうな散策路でした。安曇野を舞台としたさまざまな映像作品のロケ地にもなってきたようで、沿道にはそうしたことを示す表示を随所に見かけました。大王わさび農園の北、穂高川のほとりにはこの地域の情景を描いたとされる唱歌「早春賦」の歌碑もありました。


せせらぎの小路

せせらぎの小路
(安曇野市豊科南穂高、2011.8.28撮影)
水路の見える風景

水路の見える風景
(安曇野市穂高、2011.8.28撮影)
等々力家

等々力家
(安曇野市穂高、2011.8.28撮影)
東光寺

東光寺
(安曇野市穂高、2011.8.28撮影)

 豊かに水が流れる水路のあるのびやかな集落を抜け、室町期に仁科氏に仕え、江戸期には庄屋として御本陣とも呼ばれた等々力(とどりき)家の建物、東光寺や穂高神社などが織りなす古い町並みなどを楽しみながら穂高駅前へ戻りました。さわやかな田園には美しい花々が咲き乱れ、澄み切った水が大地を潤し、地域を抱擁するように横たわる北アルプスの山々に見守られるような安曇野は、この夏の一日、燦然ときらめいて、夢のような彷徨を楽しむことができました。

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