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#20 板倉町、初秋の田園を歩く ~“群馬の水郷”と呼ばれる景観~

 2019年9月28日、群馬県最東端の板倉町を訪れました。同町の東の端のすれすれを東武日光線がかすめています。長年駅はありませんでしたが、板倉ニュータウンの開発に伴い、1997(平成9)年に板倉東洋大前駅が開設されました。電車のみで行く場合、東武動物公園駅まで行かなければならないところを、この日は館林駅前から出るコミュニティバスを利用し向かいました。広大な空の下にある駅舎はシンプルなデザインの橋上駅舎で、目の前の新しい町に向き合っていました。

板倉東洋大前駅

板倉東洋大前駅
(板倉町朝日野三丁目、2019.9.28撮影)
板倉ニュータウンの風景

板倉ニュータウンの風景
(板倉町朝日野三丁目、2019.9.28撮影)
板倉ニュータウンの風景

板倉ニュータウンの風景
(板倉町朝日野三丁目、2019.9.28撮影)
板倉ニュータウンに挟まれた集落景観

板倉ニュータウンに挟まれた集落景観
(板倉町海老瀬、2019.9.28撮影)
東洋大学板倉キャンパス

東洋大学板倉キャンパス
(板倉町泉野一丁目、2019.9.28撮影)
水塚のある風景

水塚のある風景
(板倉町海老瀬、2019.9.28撮影)

 駅前にはショッピングセンターも立地していますが、向かって左側(南側)には広い区画が空き地として残されていました。板倉ニュータウンの地区計画では、商業業務用地として計画されているようですが、その区画の多くが未だ未分譲である状況のようです。駅前から続く大通りはゆったりとした設計となっており、現代的なニュータウンらしい修景がなされています。緩やかなカーブを描き進む道に面して、東洋大学のキャンパスががあります。キャンパスのある区画を含む西側の泉野地区と、駅に近い朝日野地区の2つのニュータウンのエリアの間には、北東から南西方向に向かって帯状に旧来からの集落が残されています。その集落には畑地や小規模な水田もあって、水塚(みつか)と呼ばれる、一段高い場所につくられた、非常用の揚舟や備蓄食料などを保管する蔵なども確認することができました。

 東洋大のキャンパスを右手に見ながら、集落の中を西へ進みますと、ニュータウンのエリアを抜けて、田園風景の中へと出ることができます。板倉町は南の利根川と、北から東を流れる渡良瀬川戸に挟まれた低平な土地に位置していることから、町内には広大な水田がつくられています。河川の作用によって生まれた微高地には集落や畑地が立地し、沖積地と洪積地とが連なる地形における典型的な土地利用が認められます。左手には行人沼と呼ばれる沼もあって、そうした地勢を象徴していました。町名である「板倉」も、かつて町のほぼ中央に存在していた板倉沼に由来しています。散策の道すがら、水塚のひとつの内部が公開されていました。板倉町はかかる地形的な要因もあり、しばしば洪水に悩まされていまして、水塚は水害時における避難先としての機能も有していました。豊穣の実りを享受できる一方、水の驚異とも隣り合わせの暮らしを営んできた地域における、先人の知恵の結晶とも呼ばれる水塚の今を見学しました。揚げ舟は非常時に使用された小舟のことで、普段は水塚の中に格納されていたものです。

行人沼

行人沼
(板倉町海老瀬、2019.9.28撮影)
板倉ニュータウン西側に広がる田園風景

板倉ニュータウン西側に広がる田園風景
(板倉町海老瀬、2019.9.28撮影)
水塚

水塚
(板倉町海老瀬、2019.9.28撮影)
水塚内にある揚舟

水塚内にある揚舟
(板倉町海老瀬、2019.9.28撮影)
板倉ゴルフ場北の小流の堤防上をゆく

板倉ゴルフ場北の小流の堤防上をゆく
(板倉町海老瀬、2019.9.28撮影)
谷田川の堤防南の水田

谷田川の堤防南の水田
(板倉町大高嶋、2019.9.28撮影)

 水塚の見学後は、板倉ゴルフ場の敷地に沿って流れる小流の堤防上を進んで、ゴルフ場の南側を流れる谷田川の堤防の上へと歩を進めました。堤防の上からは、南側一帯に広がる田圃を快い秋風の中見通すことができました。訪れたこの日の時点では、多くの田圃では稲刈りが終わっていまして、しなやかな秋の日射しをまとう秋空の下、とても清々しい風景を堪能しながらウォーキングを進めていきます。途上には、谷田川に設けられた治水施設である「八間樋(はちけんび)頭首工」も認めることができ、地域における治水の歴史にも目を向けることができました。大高嶋地区にある高鳥天満宮に立ち寄った後は再び谷田川に沿って上流へと歩を進めますと、群馬の水郷公園へとたどり着きます。そこは伝統的な水辺景観を再現しながら、釣りを楽しめる施設として整備された公園で、揚舟を利用した、水上ツアーも行われていました。

 水郷公園からは、公園に接する西側の町道を北上します。水田と集落の家並みとを貫く新しいこの道に接して、板倉町の新庁舎が完成しています。役場の先にある板倉中央公園の園内を東へ歩きますと、豊かな社叢に覆われた雷電神社の境内へと誘われます。雷電神社は、関東一円、主に利根川の中上流域に分布する同名神社の総本宮です。火雷大神(ほのいかづちのおおかみ)・大雷大神(おおいかづちのおおかみ)・別雷大神(わけいかづちのおおかみ)を祭神とする神社は、社殿と奥宮は県の重要文化財に、末社八幡宮稲荷神社は県内最古の木造建築物とされ、国の重要文化財に指定されています。門前には川魚を提供する老舗が軒を連ねていまして、低湿地や湖沼が多い当地の食文化を象徴していました。明治期の地勢図を見ますと、雷電神社は先にご紹介した板倉沼のほとりに社殿を擁する形となっていたことが分かります。地域の中でも大いなる存在であったであろう板倉沼、そして農繁期を含む夏季に頻発する雷鳴を神格化し、祀ってきたことを彷彿とさせます。

谷田川と板倉ゴルフ場

谷田川と板倉ゴルフ場
(板倉町大高嶋、2019.9.28撮影)
八間樋頭首工

八間樋頭首工
(板倉町大高嶋、2019.9.28撮影)
高鳥天満宮

高鳥天満宮
(板倉町大高嶋、2019.9.28撮影)
水郷公園

水郷公園
(板倉町岩田、2019.9.28撮影)
雷電神社

雷電神社
(板倉町板倉、2019.9.28撮影)
水郷を象徴する田園風景

水郷を象徴する田園風景
(板倉町板倉、2019.9.28撮影)

 雷電神社の参詣後は、再び大きく広がる田園風景の中を、板倉東洋大前駅へと向かい歩きました。水田となっている低地と、集落の乗る洪積地とのコントラストを確認しながら、所々に輝かしい花をつける彼岸花や、まだ刈り入れが終わっていない田んぼの稲穂の黄金色とを目に焼き付けながら、実りの秋ののびやかな風景に酔いました。


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