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仙境尾瀬・かがやきの時

 
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#13 至仏山登頂、尾瀬ヶ原を見下ろす壮観

2015年8月1日、尾瀬を歩き始めて初めて至仏山を登りました。尾瀬ヶ原からはたおやかな山容を見せる山は、過酷な登坂を用意していました。麓の平野部では37度超の猛暑となったこの日、眼下の風景や足許の花々に勇気づけられながらの踏破となりました。

鳩待峠から山の鼻、研究見本園、そして登山へ

 2015年8月1日、雲ひとつ無い夏空が覗く鳩待峠を山の鼻へ向かって出発しました。成熟した森の緑は夏の日射しを受けて一層輝きを増して、この標高の高い場所をも覆い尽くしていました。足許に目をやりますと、コオニユリやコバギボウシ、クガイソウなどの花も可憐な色彩を見せていた一方、オオカメノキの実もでき始めていまして、季節の歩みもまた確認することができました。目指す至仏山のシルエットも、朝の内はガスに覆われる場面もありましたが、時間の経過とともに徐々に木々の間に姿を見せるようになっていました。

オオカメノキの実

オオカメノキの実(鳩待峠〜山の鼻)
朝日が射す森

朝日が射す森(鳩待峠〜山ノ鼻)
靄に覆われた至仏山

靄に覆われた至仏山(鳩待峠〜山ノ鼻)
コオニユリ

コオニユリ(鳩待峠〜山ノ鼻)
コバギボウシ

コバギボウシ(鳩待峠〜山の鼻)


クガイソウ(鳩待峠〜山の鼻)

 この日は、鳩待峠から山の鼻へ下って尾瀬ヶ原に入り、研究見本園を一瞥した後至仏山を登頂、小至仏山からオヤマ沢田代を経て鳩待峠へ戻るルートを進みました。8月下旬に屋久島・縄文杉へのトレッキングを予定していたことから、本格的な登山の予行練習も兼ねての行動でした。至仏山は標高約2,228メートル、蛇紋岩と呼ばれる浸食しやすい岩石で構成されるため、植生の保護の目的で登山ルートは厳格に指定されている上に、登山が可能になるのは7月に入ってからに制限されています(2015年の登山時現在)。また、このような崩れやすい特性から滑りやすくなっており、転倒や疲労を考慮して、尾瀬ヶ原から向かうルートは上りのみ可能なルールとなっています。至仏山への登山口は、山の鼻の西側、「研究見本園」と呼ばれる湿原の西に位置しています。

 研究見本園は、尾瀬の代表的な植物を観察することができるためこのように呼ばれますが、人為的に整えられた場所ではなく、尾瀬ヶ原の一部のれっきとした自然の湿原です。湿原は太陽の光を一心に浴びてこの上ないきらめきに彩られた緑色を呈していまして、雪解けからこの時に向かって成長してきた植物たちの絶頂における美しさに満ちあふれていました。鳩待峠からの道すがらで見つけたコオニユリのほか、キンコウカや盛りを過ぎたニッコウキスゲもわずかに花が残っていまして、夏空の結晶のような緑の大地にわずかながら華を添えていました。湿原を囲む山々やその裾の森の緑も草原をしっかりと受け止めるような力強い色合いに染まっていまして、夏の青空を水面に移し込む池塘とともに、輝かしい夏の尾瀬の風景をドラスティックにまとめ上げていました。研究見本園を散策した後、いよいよ至仏山への登山口より入山しました。入山口に設置された説明板には、至仏山の特質として上述の地質的なことに触れて急峻な地形や天候の急変の多いことを指摘した後、(1)非常に滑りやすく足許に注意すること、(2)服装・装備等を厳重にすること、(3)午後の登山は見合わせること、(4)登山道以外には立ち入らないこと、の4点が注意事項として指摘されていました。

燧ヶ岳

燧ヶ岳を望む(山ノ鼻付近)
研究見本園

わずかに残っていたニッコウキスゲ(研究見本園)
湿原と池塘

研究見本園の湿原と池塘
至仏山

至仏山を望む


至仏山登頂、酷暑の中の労苦の末

 研究見本園西側の森からスタートする至仏山への山道は、木製の階段がはしごのように取り付けられた、いきなりの急坂から始まりました。上り始めたのは午前8時20分で、最初は木の階段や山道、礫が露出したルートを、針葉樹と広葉樹が混じり合う森の中を進みました。高木が生育できない限界点である「森林限界」へ到達したのは午前9時過ぎ、約40分の時間を費やしました。既述のとおり、至仏山は脆い蛇紋岩質の山体を持っているために元来植物が根を下ろしにくいため、周辺の山と比べて森林限界が低いという特徴があるのだそうです。そのために、山の大部分が山肌を露出した形となって眺望されることから、尾瀬ヶ原からはなめらかな印象を見せていることにつながっているというわけです。森林限界を過ぎますと、頭上に被さっていた植生もなくなり、夏のぎらぎらした日光が直接体に突き刺さるようになります。

 また、山の鼻の標高はおよそ1400メートルで、至仏山頂が約2200メートルであることから、その比高は800メートルで、直線距離が3キロメートルであることを考慮しますと、1キロメートル進むために約270メートルを上るという、過酷な上りとなります。自然、体全体からは汗が迸り、喉はすぐに渇き、息を切らしながらの道筋となりました。森林限界を超えたあたりからは眼下の視界も開けてきまして、彼方に望む燧ヶ岳の下、山並みの間に展開する尾瀬ヶ原の様子を手に取るように眺めることができるようになります。湿原を横断する拠水林の帯や、池湯の群、そして湿原のみずみずしい緑色がさわやかな絵画となって目に迫ります。上る間に体力は瞬く間に消耗してしまい、少し歩いては小休止という状況下での登山となってしまいました。眼下に望む大パノラマは、ほんの少しではありましたが、疲れを緩和させる清涼剤になりました。

登山口

登山口・いきなりの急な階段を上る
登山道周辺の風景

森林限界までの登山道周辺の風景
森林限界

森林限界から至仏山頂を望む
尾瀬ヶ原

徐々に尾瀬ヶ原が見え始める
登山道

登山道の景観
ミネウスユキソウ

ミネウスユキソウ
ムラサキタカネアオヤギソウ

ムラサキタカネアオヤギソウ
尾瀬ヶ原と燧ヶ岳

尾瀬ヶ原と燧ヶ岳
牛首付近をアップ

尾瀬ヶ原俯瞰
ホソバヒナウスユキソウ

ホソバヒナウスユキソウ

 至仏山は花の宝庫としても知られています。この日は登山道の傍らに至仏山や谷川岳周辺にしか生育しないというホソバヒナウスユキソウのほか、ミネウスユキソウ、ムラサキタカネアオヤギソウ、タカネナデシコ、ホソバツメクサ、タカネトウウチソウ、ヒメシャジンといった花々やチングルマの果穂に出会うことができました。「タカネ」という接頭辞に高山であることを実感します。だんだん切れる息と大量の汗に悩まされながら、頻繁に休憩を挟みながら、ゆっくりとした登山の中で登山者の方に花の名前を教えていただいたのですが、疲労困憊の中十分な鑑賞もできなかったことが悔やまれます。登山路は相変わらず急斜面に梯子のような木が渡された場所や、浸食された岩屑が行く手を阻むような箇所、鎖場となっている岩場など、これまでにあまり経験してこなかった登山路の連続に悪戦苦闘し、歩を進めます。

 実際の行程は、午前10時過ぎに高低差約800メートルの中間点を示すプレートへと到達し、山頂から東へ張り出す格好の尾根筋にあたる高天ヶ原に到着したのが午後0時30分となっていましたから、道のりの険しさが理解できます。そこからさらに30分の踏破で、ようやく至仏山山頂に登り詰めることができました。頂上は低木や草に穏やかに覆われた岩場となっていまして、この日は多くの登山客が360度のパノラマを楽しんでました。尾瀬ヶ原を挟んで正対する燧ヶ岳や背後の会津駒ヶ岳方面へ連なる山並み、そして奥利根方面へ目を向けますと、利根川上流のダム湖も水面もわずかに見えまして、日本の深奥に足を踏み入れたことを実感します。尾瀬ヶ原からは見上げていた山々が同じ視線の下に入る風景には、筆舌の尽くしがたいほどの感動を覚えました。

鎖場

鎖場
登山道

登山道・蛇紋岩が露出する
ホソバツメクサ

ホソバツメクサ
登山道の風景

登山道の風景
タカネナデシコ

タカネナデシコ
ヒメシャジン

ヒメシャジン
急な登坂

急な登坂が続く
タカネトウウチウソウ

タカネトウウチソウ
至仏山山頂

至仏山・山頂
至仏山山頂

至仏山頂から奥利根を望む
至仏山山頂

至仏山頂から尾瀬ヶ原・燧ヶ岳を望む
至仏山山頂

至仏山頂からの山並み


 小至仏山からオヤマ沢田代を経て鳩待峠へ

 前述のとおり、至仏山への登山ではかなりの体力を消耗し、用意した水分を飲み干してしまうほどの疲労を受けました。昼食もほとんど喉を通らず、高山ながら灼熱の太陽は容赦なくその滾るような日光を届けていまして、そのまま30分ほど休息し、体力の回復を待ちました。この日辿ってきた尾瀬ヶ原からの登山道は上り専用となっているため、至仏山からの帰路は、至仏山の南にある小至仏山(こしぶつさん)を通って尾根筋を進み、オヤマ沢田代の分岐点から鳩待峠へ続く尾根筋を下っていくことになります。尾瀬ヶ原からの登坂よりも比較的辿りやすいルートであることから、鳩待峠からこのトレイルを往復して至仏山を目指す登山者も多いようです。

至仏山頂遠景

至仏山頂遠景
小至仏山

小至仏山を望む(至仏山側から)
チングルマの果穂

チングルマの果穂
至仏山と尾瀬ヶ原

小至仏山頂から至仏山と尾瀬ヶ原を望む

 至仏山から小至仏山へのルートは、なだらかな尾根筋を進みます。とはいえ、滑りやすい蛇紋岩質の岩が随所に露出したルートを通るため、歩行には注意を要します。眺望は相変わらず良好で、利根川最上流の山並みや尾瀬ヶ原の眺めを確認しながらの踏破となります。小至仏山(標高2162メートル)のピークは至仏山のそれと比べてやや尖った印象で、後半は登りとなることからやや体力を使います。小至仏山頂への到着は午後2時20分。一般的な歩行ルートなどで見られる標準的な歩行時間は35分とされていることが多いようで、それよりやや時間を要してしまった格好です。小至仏山からは、なだらかな至仏山の山容と、それに隠れるようにして東側に垣間見える尾瀬ヶ原とのコントラストを見ることができました。

 小至仏山を過ぎますと、急坂となっている岩場を下りる形で進み、その後は鳩待峠への分岐点のあるオヤマ沢田代までは所々に木道も設置されるようになって、これまでよりは大分歩きやすい道筋へと変わってきます。しかしながら、かつてないほど疲労困憊の体は、夏の日光をまともに受け続けてきたことも手伝って本当に消耗していまして、登山者に分けていただいた水を少しずつ飲みながら、また眺望のよい場所などで休みながら、慎重に下山をしていたことを覚えています。午後2時50分にオヤマ沢田代の湿原へ。池塘もあるその湿原は、夏の鮮やかな日射しをう受けてさざなみのような輝きを見せていまして、それはまさに天上の楽園のような光景でした。

小至仏山からの下り

小至仏山からの下り
小至仏山眺望

小至仏山眺望


オヤマ沢田代
オヤマ沢田代から尾瀬ヶ原を望む

オヤマ沢田代から尾瀬ヶ原を望む
鳩待峠へ

オヤマ沢田代から鳩待峠へ
鳩待峠に到着

鳩待峠に到着
 
 オヤマ沢田代の分岐点からはルートは徐々に森の中となり、大きな起伏もない山道となって、かなり歩きやすくなっていきました。オヤマ沢には水場もあって、からからに乾いた喉を潤すこともできました。午後3時45分過ぎ、やっとのことで鳩待峠へと帰着することができました。至仏山踏破はこれまにない苦しい道のりとなりましたが、山上から見下ろした尾瀬ヶ原の美しさは、忘れることのない壮観として脳裏に刻まれました。


 
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