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仙境尾瀬・かがやきの時

 
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#6 初夏の尾瀬ヶ原とアヤメ平をめぐる

 
初夏の観光シーズンを迎えた2008年6月14日午前6時、尾瀬ケ原に入る最も一般的なゲートウェイとなる鳩待峠に到着しました。この日の朝、鳩待峠は薄雲に覆われていまして、晴れていればくっきりと見て取れる至仏山も、裾を残して霧の彼方にすっかりと隠されていました。この日は、尾瀬ケ原西端のベースポイントなる山の鼻へは向かわず、アヤメ平、富士見峠を経て尾瀬ケ原へ進むルートをとりました。売店や休憩所の建物の裏、東側にある入山口から尾瀬ハイクをスタートします。

鳩待峠〜アヤメ平〜富士見峠


 新緑の生え揃った鮮やかな山道を進みます。低く垂れこめた霧のような雲が樹冠を鈍色に滲ませています。鳩待峠から富士見峠までは約6.3キロメートル、ガイドマップに記されてる踏破の目安時間は2時間40分となっています。鳩待峠の標高は1590メートル、富士見峠手前の1900メートル前後の地帯を越えて、約300メートルの高低差を尾瀬ケ原を取り囲む山々の尾根筋を登る行程となります。

 鳩待峠を過ぎて最初はややきつい上りとなります。鳩待峠から1キロメートルあたりからは木道はなくなり、木の根がむき出しになったり、浸食された地面があらわになった山道へと変化していきます。ここかしこに残雪が道を覆っており、歩行には十分な注意が必要です。標高は高くなるにつれ、植生は広葉樹林からオオシラビソなどの針葉樹林へと変化していきます。道は徐々になだらかとなり、木道も再び表れます。6月中旬とはいえ、人通りも多くない鳩待通り(鳩待峠〜アヤメ平へのルートの通称)は本当に雪が多く残っており、すべりやすいので、さらに足元に気をつけて進んでいきます。1時間ほど歩きますと、横田代(標高1860メートル)の湿原に到着しました。斜面に展開することからこの名のある横田代では、なめらかな稜線の湿原と点在する池塘群が、針葉樹林に穏やかに囲まれた風景が広がります。この頃から時折晴れ間も望むようになり、その時は湿原が一気に鮮やかに陽光に包まれるさまもたいへん印象的でした。ミズバショウもみずみずしい花を咲かせていた横田代を通り抜け、笹原と針葉樹林が混交するエリアの高低差の少ない木道を進み、中原山山頂(標高1968メートル)の道標を一瞥し、アヤメ平へと至りました。

横田代

横田代
アヤメ平

アヤメ平の景観
ショウジョウバカマ・チングルマ

ショウジョウバカマ(左)とチングルマ(上)
アヤメ平

アヤメ平から南方を望む

 アヤメ平は標柱に刻まれた標高は1969メートル、360度の視界が広がるまさに「天上の楽園」にふさわしいすがすがしい風景が広がります。この日はアヤメ平に着くころには再び灰色の空のもととなってしまい、燧ケ岳や至仏山のパノラマは望むことはできませんでした。しかしながら、片品村方面へはなだらかな山並みが一望のもとに見渡すことができまして、訪れる人も少ない静寂の中、ただただのびやかな時間と風景とが目の前に流れていきます。まだ緑も芽吹き始めたばかりの湿原には、チングルマやショウジョウバカマの花が可愛らしい姿を見せています。 
 アヤメ平は、湿原の回復への取り組みで知られます。1960年代から70年代にかけての「尾瀬ブーム」時に多くのハイカーが訪れた影響で、アヤメ平では湿原がすっかり荒廃してしまいました。その後、木道の設置による歩行ルートの限定した上で湿原回復への取り組みが行われ、現在では湿原は緑をかなり取り戻しています。その湿地回復作業は現在においても継続されているようです。アヤメ平でとどまって天候の回復を待ったものの雲が晴れる様子もなかったため、富士見峠へ向かって出発しました。富士見田代の池塘を一瞥した後、針葉樹林に囲まれた富士見小屋へと到達しました。

<参考>
 鳩待峠〜アヤメ平〜富士見峠 約6.3km
 鳩待峠出発 6:00   アヤメ平到着 7:44  富士見峠到着 8:00 
 (私が当日実際に歩いた時間です。参考にしてください)


富士見峠〜八木沢新道〜見晴

 小休止の後、尾瀬ヶ原へと下る山道を進みます。富士見峠から尾瀬ケ原へのルートは、竜宮十字路へ下る長沢新道と、見晴十字路へと下る八木沢新道の2つがあります。この日は東側の八木沢新道を進みました。八木沢新道は、古くは戸倉(片品村)から尾瀬ケ原の山小屋へと馬で荷物を運んだルートであったのだそうです。峠から間もなくは雪も多く、傾斜のややきつい山道となっていて、谷の上の狭いルートが雪に閉ざされ、足を踏み外せば崖下に落ちてしまいそうな危険な場所もありました。それでも慎重にコースを見極めて、慎重に注意深く歩を進めていきました。十二曲り(富士見峠から1キロメートル)付近では残雪も多く、周囲の森も若葉が芽吹いたばかりでどんよりとした空も相まって寒々しい雰囲気の風景も、広葉樹が占める割合が多くなるにつれて徐々に新緑の鮮やかさが増して、昼場(標高1550メートル)と呼ばれる場所まで来ますとすっかりと初夏の緑濃い森の中へと景色が移り変わっていました。

 ブナなどのみずみずしい緑にあふれる森の中、道はだんだんと緩やかになって、道の名の由来となっているであろう八木沢橋(富士見峠から3.4キロメートル)へと到達します。雪解けの流れも一段落して流れは穏やかになっているように見えるものの、所々に道を沢筋が横切っている場所もあり、これが水量が多い時期であれば長靴等がなければ通過できな場合もあるのではないかとも考えられました。オオカメノキの白い花が清楚な輝きを見せる緑にあふれた山道は、このあたりからはすっかりとなだらかな快適な散策路へと変わっていました。福島県と群馬県の県境となっている沼尻川を越えて、新緑の山道をたどり、萌えるような木々の緑の中、見晴の山小屋街へと到達しました。見晴での休息中に青空が雲の間から広がって、山小屋のテラスから眺める湿原も一気に光を増してきていました。

<参考>
 富士見峠〜見晴 約5.7km
 富士見峠出発 8:11   見晴到着 9:54 (私が当日実際に歩いた時間です。参考にしてください)


富士見田代

富士見田代
残雪

まだ雪が残る山道(八木沢新道、富士見峠付近)
八木沢新道

八木沢新道の景観(富士見峠〜昼場)
オオカメノキ

オオカメノキの花
八木沢新道

八木沢新道の景観(昼場〜八木沢橋)
八木沢橋

八木沢橋付近
見晴

見晴から至仏山を望む
見晴遠景

見晴遠景と燧ケ岳


見晴〜竜宮〜山の鼻

 見晴から山の鼻へと向かう湿原の木道をゆったりと進みます。視線の先の至仏山も青空が広がってくるなかでいよいよそのたおやかな全貌を見せてきました。尾瀬ケ原の湿原は黄緑色に染まっていまして、背景にたなびく周囲の森や湿原を横切る小川に寄り添う拠水林の輝きに満ちた緑も相まって、尾瀬らしい目眩めく大地の姿がさわやかな風に吹かれています。花々も湿原のあわいに咲き乱れています。竜宮までの下田代湿原ではリュウキンカ、タテヤマリンドウ、ワタスゲの綿毛、チングルマ、ミズバショウなどの花々に出会いました。また、竜宮の沼尻川畔の拠水林ではニリンソウやミツバオウレン、オオバタチツボスミレが木漏れ日の下、可憐な花をつけていました。

 竜宮からはさらに緑の濃さが目に眩しい中田代の湿原が展開していきます。至仏山も青空を流れゆく純白の雲を背景に美しい山容を見せて、背後には燧ケ岳もごつごつした頂をくっきりと望むことができるようになりました。彼方に広がるリュウキンカの花畑や、木道の間に顔をのぞかせるミツガシワ、そして尾瀬ケ原最大の撮影スポットのひとつである下ノ大堀川の流れを介して望む至仏山に寄り添うようなミズバショウやズミなどの花々がそれぞれに珠玉の燦爛を見せてくれていたように思います。

タテヤマリンドウ

タテヤマリンドウ
竜宮

竜宮・沼尻川の拠水林
オオバタチツボスミレ

オオバタチツボスミレ
至仏山

下ノ大堀川から至仏山を望む
ワタスゲ

ワタスゲと湿原
ヒメシャクナゲ

ヒメシャクナゲ

 輝きにあふれる青空を映す池塘や、透明感みなぎる水流をこんこんと流下させる小川、さわやかな風にさざなみをつくるさみどり色の湿原、湿原の緑にさらなる深みと光を与える彼方の山々のたおやかな青葉、そしてそれらを見守るように揺るぎなく聳える至仏山と燧ケ岳の凛とした姿、すべてが尾瀬ケ原というきらめきに満ちたステージに立って、この上ない表情をつくりだしていました。

 正午ごろ、尾瀬ケ原の西の入り口に位置する山の鼻へと到着しました。山の鼻の西側には、尾瀬の代表的な植物を観察することを目的とした散策エリアである「研究見本園」があります。園内はミズバショウやリュウキンカが最盛期を迎えていまして、間近に望める至仏山の姿や拠水林の鮮やかな緑とを手軽に満喫できる場所となっています。山の鼻では尾瀬観光のハイライトとなるミズバショウの咲く季節であり、また鳩待峠という、尾瀬入山の最も一般的なルートの途上でもあることから、たいへん多くのハイカーが休息をとっていました。山の鼻から鳩待峠までは約3.3キロメートルの山道です。ほぼ全線にわたって木道が整えられており、終盤のやや急な坂を除けば快適なトレッキングコースです。川上川を渡り、ミズバショウの生える小湿地帯を越え、右手に時々見渡せる至仏山の姿に勇気づけられながら、鳩待峠へのルートを進みました。眩い光を返す樹冠の下、ムラサキヤシオやサンカヨウ、シラネアオイなどの花々に出会うことができました。

湿原

池塘と湿原、周囲の山々の緑
池塘と燧ケ岳

牛首分岐付近・池塘と燧ケ岳
研究見本園

研究見本園・ミズバショウ
研究見本園

研究見本園・リュウキンカ
研究見本園

研究見本園から至仏山を望む
サンカヨウ

サンカヨウ
シラネアオイ

シラネアオイ
至仏山

鳩待峠〜山の鼻にて至仏山を望む

<参考>
 見晴〜竜宮〜山の鼻〜鳩待峠 約9.1km
 見晴発 10:34   竜宮到着 10:57  山の鼻到着 12:00
 山の鼻発 12:28  鳩待峠到着 13:15 (私が当日実際に歩いた時間です。参考にしてください)

 
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