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関東の諸都市・地域を歩く


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#36 結城の町並み散策 〜穏やかな町屋景観に触れる〜

 下野薬師寺跡を後にして、穏やかな田園風景や雑木林の続く県道を南へ車を走らせます。田川の緩やかな流れを渡りますと、徐々に市街地が広がるようになって、結城の街中へと誘われます。栃木県から茨城県へと県境を越えているといった実感はまったく感じられません。結城市役所は小ぢんまりとしたどこかレトロな雰囲気を感じさせる建物で、シンプルな切妻屋根が乗った車寄せの佇まいも印象的です。市役所前の通りは「日高川通り」と呼ばれているようで、連続する築地塀に桜や銀杏の並木が重なる風景がまた穏やかな雰囲気です。築地塀は市役所から東へ、結城小学校方面へと続いていきます。この遊歩道は「紬のふるさと歴史の道」と呼ばれているようです。

 この遊歩道の名前に示されているとおり、結城は紬の産地として知られます。「結城」の地名も、古来より総(ふさ=総は麻の転)や穀(ゆう=木綿)の生産地として、総(ふさ)の国の「ゆうき」と呼ばれていたことによるとされているようです。鎌倉時代には結城朝光が館を構え、以来結城家歴代の城下町となり、結城紬の特産地として発展しました。結城地方で織られる「本場結城紬」は国の重要無形文化財の指定を受けているとのことです。江戸時代には結城水野家の城下町となり、結城紬や各種農産物の集散地となりました。市内には神社・寺院等が点在し、市街地の道路は曲折するなど、城下町のなごりがみられ、さらに明治時代に造られた土蔵等も数多く残されています(市ホームページ内「沿革」より一部修正・省略により引用)。

結城市役所

結城市役所
(結城市結城、2007.9.8撮影)
築地塀

築地塀(結城小学校前)
(結城市結城、2007.9.8撮影)
町屋景観

大町の町屋景観
(結城市結城、2007.9.8撮影)
町屋景観

大町の町屋景観
(結城市結城、2007.9.8撮影)

 市役所前の穏やかな通りを進み、昔ながらの蔵や町屋が多く残る市街地を散策します。結城紬関連の商店や資料館のほか、薬店や菓子店など、市街地の商店が白壁や板壁、石材を積み上げた壁などの個性にあふれた蔵や町屋で営業しています。家屋は横の長い壁側が通りに面する平入(平入に対し、短い辺が通りに面しているものを「妻入」と呼びます)が基本のようで、通りに突き出した庇の瓦屋根が温かみを感じさせます。結城の町並みは見世蔵の景観が特徴的です。見世蔵(みせぐら)とは、江戸期以降に発達した商家建築の一様式で、蔵を貯蔵目的ではなく、その主目的を店舗や住居であるものをそう呼ぶのだそうです。蔵造りの建物の前には「結城の蔵」と題された説明看板が立てられています。明治期に建築されたものが多いようで、切妻・平入の建物の中に寄棟・妻入の蔵があったり、高度経済成長期以降に造られたと思われる現代建築の商店が重なっていたりと、華やかさは無いかもしれませんが現在に続く市街地の中にいくつもの時代を織り込ませた町並みは、たいへん好感を持ちました。

 伝統的に市街地の中心であったと思われる大町の交差点から西へ進みます。木町の交差点が互い違いに連接する変則的なものになっていまして、いわゆる「鉤の手」の形式をとった、昔ながらの城下町の街割の姿を思い起こさせます。付近には造り酒屋の趣のある建物や、蔵造りを生かした自動車販売店の店舗などもありました。交差点の西側、東西の県道の突き当りには慎ましやかな山門を擁する毘沙門堂の堂宇が佇みます。城下の西の守りとして配置されていたのかもしれないなとも感じられます。山門の前には追分道標石灯籠が設置されており、水戸街道、小山街道、境経由の江戸街道への道標とされていたのだそうです。鬼怒川に接する結城は織物類の集散地であったことに加えて、古くから交通の要衝でもありました。明治期以降鉄道など陸上交通による流通が主流になるにつれて水運は衰微したものの、織物産業の興隆により結城の町は明治大正期を経ても一定の都市基盤を保ってきたことは、多く残される見世蔵の存在によって想像することができます。

毘沙門堂

毘沙門堂
(結城市結城、2007.9.8撮影)
駅前

JR結城駅へ向かう通り
(結城市結城、2007.9.8撮影)
市民情報センター

結城市民情報センター(JR結城駅前)
(結城市国府町一丁目、2007.9.8撮影)
結城城跡

結城城跡
(結城市結城、2007.9.8撮影)

 そんな陸上交通のノードのひとつとなったJR結城駅方面へ、大町の交差点に戻って南へ歩みます。市街地の南の外れに設置された鉄道駅への主要ルートが大松交差点に連接しているところも、あるいは大町交差点が町の中心であったことの証左のひとつであるのかもしれないと考えながら、穏やかな町並みの中を進んでいきます。駅前の商店街は中心市街地と比較しますと新興の商業地域で、駅前には結城市民情報センターの巨大な現代建築が立地しています。この施設は図書館や多目的ホール、会議室などが入る市の文化施設で、1階には観光案内所も併設され、結城を訪れる探訪者へのニーズに応える豊富な資料やスタッフの体制が整えられていました。センターの西隣には「しるくろーど」という名前の商業施設も存在しています。

 駅前を後にし、のびやかな町並みを散策しながら、市役所方面へと戻りました。これまで結城市を通過することはあっても、それは市街地を大きく南へ迂回する国道50号を通過するケースで、今回初めて結城の中心市街地を歩き、多くの蔵造りの建築物が市街地に溶け込む町並みに接して、新鮮な感動と驚きを覚えました。現代の市街地の中に時代を経た多くの蔵や町屋が現役の店舗等として活用され、しかもそれらが視覚的に過度に際立つことなく存立していることが本当に貴重なことのように感じられます。市街地散策後、この地域が城下町として成長する礎となった結城城跡へ立ち寄りました。城跡公園として整備されたこの場所はわずかに空堀などが残るのみで、わずかに残る空堀や、やや比高のある台地上にあることなどが城跡としての特質を今に伝えています。

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