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関東の諸都市・地域を歩く


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#150 羽生市東郊の風景 ~仲秋の田園と集落が重なる景観~
 
 2018年10月14日、やや雲が多いものの、時折雲間から青空が望む天気となったこの日は、東武伊勢崎線羽生駅の東口を出発し、羽生水郷公園近くの転作田を利用し開催されていた「羽生コスモスフェスティバル」の会場まで歩くイベントに参加しました。仲秋を迎えたこの季節は、水田の稲も黄金色に輝いて借り入れが終わっている田んぼもあり、日中にはまだ残暑の気配も幾分か残るものの、野辺には秋の花が可憐な輝きを見せて、徐々にその情趣に浸っていく時間となります。羽生市の中心市街地であるプラザ通りを通り、北へ向かい、羽生北小学校の先から剣道を右へ曲がって校外へと進みます。

羽生市中心市街地

羽生市中心市街地の風景
(羽生市中央三丁目、2018.10.14撮影)
住宅地の間の水田

住宅地の間の水田
(羽生市北二丁目、2018.10.14撮影)
葛西用水路

葛西用水路
羽生市東三丁目/北二丁目、2018.10.14撮影)
境界石

境界石
(羽生市尾崎、2018.10.14撮影)

 大天白公園を通り、周辺は戸建ての住宅が立ち並ぶエリアへと変わっていきます。家々の間には水田が残る場所もあって、市街地に接した農地が住宅地へと変わった様子が見て取れました。住宅地の間を利根川から埼玉用水路を介して取水する葛西用水路が縦貫しているのも、この地域がかつて農業的な土地利用が主であったことを物語っていました。そんな穏やかな宅地を抜けて、県道60号沿いへと歩を進めます。この道路は明治期の地勢図にも描かれてる古い道筋のようで、栗橋と羽生を連結するローカルな往還であったようです。沿道には昔ながらの佇まいを残す家屋もあって、水田や畑の面積も圧倒的に広範囲なものへと変化していきます。やがて、「これより羽生領」なる趣旨の文言が刻まれた庚申塚を路傍に見つけました。その碑には解説文が書かれた小さな看板が付属しており、田山花袋の代表作である「田舎教師」にも登場する境界石であることが説明されていました。この羽生市の東郊は、この小説の舞台となった場所です。

 井泉小学校の手前を北へ曲がって、利根川右岸に広く展開する水田と集落とが点在するエリアへと足を伸ばします。利根川右岸の一帯は、埼玉県内でも有数の穀倉地帯で、集落は乱流を繰り返した利根川の旧流路に沿った自然堤防上に分布しています。江戸時代に段階的に実施された、利根川の流路を江戸湾から太平洋へと付け替える一大事業(利根川東遷事業)によって利根川の姿は大きく変貌し、また新田開発に付随した農業用水路の開削も手伝って、埼玉県内の北部から東部にかけての沖積地や洪積台地は美田へと変貌していきました。そうした歴史の上に形成された田園風景を横切りながら、長大な堤体を横たえる利根川本流の堤防上へと躍り出ました。この日は雲が多めの天候のため遠方への視界が利きませんでしたが、広い河川敷を介してわずかに覗く利根川の水面と対岸の茫漠たる風景に、我が国有数の大河の泰然たる様を実感しました。



水田が広がる風景
(羽生市発戸、2018.10.14撮影)
利根川河川敷の風景

利根川河川敷の風景
(羽生市発戸、2018.10.14撮影)


埼玉用水路
(羽生市上村君、2018.10.14撮影)
ススキと田園風景

ススキと田園風景
(羽生市上村君、2018.10.14撮影)

 利根川の堤防を離れ、利根川に沿って東流する埼玉用水路端の道路を東へと歩きました。周辺は黄金色に色づいた水田が大きく広がっていまして、刈り取りの終わった田との穏やかな秋のコントラストを描いていました。点在する集落の家々は北西側に屋敷林を伴っていることが多く、冬季における季節風への対応として、日本各地で典型的に見られる風景をここでも確認することができました。東北自動車道の下をくぐりさらに進みます。鷲宮神社の境内を経て市立村君公民館の敷地へと入り、穏やかな家並みと竹林などのある集落へ。その先には境内に古墳が存在する永明寺(ようめいじ)が佇んでいました。永明寺古墳は県指定史跡で、当時における国境付近に位置することなどから学術的にも重要視される前方後円墳です。

 村君地区からは南へ針路を採り、屋敷林を伴う集落と水田とが織りなすしなやかな風景の下、散策を進めました。前述のとおり、利根川に近いこの地域では、利根川やその支流が分流や乱流を繰り返してきた歴史があり、そうしたかつての流路に対応して自然堤防や低地が帯状に分布し、水田や集落などの土地利用を規定しています。東北自動車道の近くをさらに南へと歩いた先には、羽生水郷公園へと歩き続けます。通過している村君地区や三田ケ谷、弥勒地区は、先に触れた田山花袋の小説「田舎教師」に登場する教師のモデルとなった人物がくらした地域です。実在の人物にゆかりのある寺院や像なども道中に点在していまして、そうした事物は藩政期から近代へ、教育をはじめ行政や経済などさまざまな環境の転換期を生きた人々の息づかいを感じさせます。

永明寺古墳

永明寺古墳
(羽生市上村君、2018.10.14撮影)
田舎教師の像

田舎教師の像
(羽生市弥勒、2018.10.14撮影)
屋敷林のある集落

屋敷林のある集落
(羽生市弥勒付近、2018.10.14撮影)
羽生コスモスフェスティバル

羽生コスモスフェスティバルの風景
(羽生市三田ケ谷、2018.10.14撮影)

 水郷公園の東側、清掃センターの南側の転作田では、麗しいピンクや白の花びらを瞬かせたコスモスがいっぱいに花を開いていまして、多くの人々を迎えていました。羽生駅から東へ、主に水田が大きく展開する地域を巡ることとなったこの日のフィールドワークでしたが、朽ちかけたビニルハウスや工場の立地、耕作放棄地など、高度経済成長を挟んで変容してきた農業環境の現在をも垣間見るものともなりました。休耕田を利用した花畑は各地で開かれていますが、その可憐さの背景にあるものをもしっかりと心に留めておく必要があるとも感じました。


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