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関東の諸都市・地域を歩く


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#140 港北ニュータウンの都市と自然景観 ~水と緑に溢れる“副都心”~

 2017年12月2日、横浜市内の磯子から山手までを訪れていた私は、その足で列車を乗り継ぎ横浜線・中山駅へ。そこから市営地下鉄グリーンラインを利用してセンター北駅へと進みました。首都圏での有数の大規模ニュータウンの一つである「港北ニュータウン」のタウンセンターにあたる駅前は、駅ビルであるショッピングタウンあいたいをはじめ、モザイクモール港北などの巨大な商業施設があって、活気を見せていました。駅前広場を俯瞰するように付けられたペデストリアンデッキを歩き、西側に林立する「港北センタープレイス」のマンション群の袂へと降りますと、杉山神社の社殿が鎮座していました。昔からの集落がある地域が現代的な新興住宅地へと移り変わった歴史をそれは如実に語りかけているようでした。

モザイクモール港北

モザイクモール港北
(横浜市都筑区中川中央一丁目、2017.12.2撮影)
センター北駅

市営地下鉄ブルーライン・センター北駅
(横浜市都筑区中川中央一丁目、2017.12.2撮影)
モザイクモール港北

モザイクモール港北前のペデストリアンデッキ
(横浜市都筑区中川中央一丁目、2017.12.2撮影)
センター地区の風景

センター地区の風景
(横浜市都筑区中川六丁目付近、2017.12.2撮影)


杉山神社(中山)
(横浜市都筑区中川六丁目、2017.12.2撮影)
港北センタープレイス

港北センタープレイス
(横浜市都筑区中川六丁目、2017.12.2撮影)

 港北ニュータウンは、横浜市が戦後の荒廃からの復興と成長を目指して計画・推進した「六大事業」のひとつに挙げられるものでした。東京大都市圏の急速な拡大によってベッドタウン化が進む中で、良好な職住近接型の住宅地の創出を目指したニュータウンは、早淵川がつくる河谷平野と背後の丘陵地の広大な範囲を対象区域として計画されました。もともと低地の部分は水田として利用され、崖下に沿うように集落が存立する土地利用がメインであったことから、計画区域内に農業専用エリアも残す線引きがなされていることも特徴です。神社を訪れた後は、昔から存在してきたと思われる個人宅と新興住宅地とが混じり合うような風景の中を進み、緑地として残されている中川八幡山公園へと進みました。園内は広々とした芝生と、竹林や落葉樹林とが混交する穏やかな林に包まれていまして、里山の雰囲気を感じさせました。小高い公園からは、センター地区方面と、早淵川沿いの水田のある景色を確認することができました。

 中山八幡山公園からは南へと進んで早淵川を渡り、都筑中央公園として整備された丘陵の坂下へと続く歩道を辿りました。歩道は小流に寄り添うように進む「ささぶねのみち」と名付けられた快い散策路となっていまして、初冬のこの日は鮮やかなカエデの紅葉に心和みました。港北ニュータウンの造成は人口の急増を呼び、従来の港北区と緑区の区域はその人口増に対応するために1994(平成6)年に、港北・緑・都築・青葉の4区に再編されました。これにより港北ニュータウンのセンター地区は都筑区に属することとなり、都築中央公園も区内最大の公園として、ニュータウンに係る土地区画整理事業により誕生しています。昔からの里山を生かした園内には、谷戸の地形を利用した水辺や雑木林が穏やかな情景をつくっていまして、現代の都市にありながらも地域の歴史的な背景をも感じることのできる景観となっていることが印象的でした。港北ニュータウンは、地域内に効果的に緑地を配しそれらを緑道で結ぶ「グリーンマトリックスシステム」を採用し、緑地環境を保全する工夫が施されています。

港北ニュータウン

港北ニュータウンの風景
(横浜市都筑区中川七/六丁目、2017.12.2撮影)
中川八幡山公園

中川八幡山公園・冬の夕景
(横浜市都筑区中川七丁目、2017.12.2撮影)
中川八幡山公園

中川八幡山公園から早淵川周辺の水田を望む
(横浜市都筑区中川七丁目、2017.12.2撮影)
中川八幡山公園

中川八幡山公園からセンター地区方向を望む
(横浜市都筑区中川七丁目、2017.12.2撮影)
早淵川

早淵川
(横浜市都筑区中川五丁目/荏田東町、2017.12.2撮影)
ささぶねのみち

「ささぶねのみち」の風景
(横浜市都筑区荏田東四丁目、2017.12.2撮影)

 落ち葉によってしっとりとした絨毯が敷き詰められたような散策路を進む行程は、丘陵に寄り添うように静かな表情を見せる谷戸の池や、夕日に照らされた赤や黄色や褐色の紅葉によって彩られていまして、初冬の里山の風景を存分に探勝することができました。木々の間から覗く冬空も、どこまでも澄み渡っていまして、態様のスポットライトを浴びた雲も冬らしい透明感に満ちていました。公園の東端にも、センター北駅近くにあったものと同名の杉山神社が祀られていまして、こちらはかつてこの地域一帯を村域としていた茅ヶ崎村の鎮守でした。杉山神社は武蔵国における式内社ですが、その後継と目される論社は横浜市内を中心に複数存在していまして、その信仰圏がローカルに存在している特徴を持つものであるようです。都筑区の名も、かつての郡名から採られていまして、地域の歴史にも配慮したニュータウンとしての性質の一端を窺い知ることができるようです。

 公園の南側は病院や公共施設、事業施設などが集積する現代都市の建築物群が間近に接する形となっていまして、その町並みがそのままブルーラインのセンター南駅前へと連接していました。都市と自然景観とが大胆に隣り合うようにつくられた港北ニュータウンの町並みは、環境との共生がより重要な政治的課題として捉えられるようになった、1990年代中葉以降の時流を見事に捉えているように感じられまして、その後現在まで続くエコロジカルな地域開発というトレンドの嚆矢のひとつと言ってよいような存在であるように思われました。

都築中央公園

都築中央公園・谷戸の池と夕日
(横浜市都筑区荏田東四丁目、2017.12.2撮影)
都築中央公園

根小屋神社
(横浜市都筑区荏田東四丁目、2017.12.2撮影)
杉山神社

杉山神社(茅ヶ崎)
(横浜市都筑区茅ヶ崎中央、2017.12.2撮影)
杉山神社近くの紅葉

杉山神社近くの紅葉
(横浜市都筑区茅ヶ崎中央、2017.12.2撮影)
センター南駅近くの都市景観

センター南駅近くの都市景観
(横浜市都筑区茅ヶ崎中央、2017.12.2撮影)
センター南駅

市営地下鉄ブルーライン・センター南駅
(横浜市都筑区茅ヶ崎中央、2017.12.2撮影)

 横浜市の中心部と直結するとともに、東京都心から放射状に伸びる鉄道網ともリンクする位置にある港北ニュータウンは、都心への通勤流動にも対応しながら、横浜市中心部との有機性も確保している点もあいまって、とても巧みに計画された新興住宅地域であるとも言えると思われます。さらに、丘陵地と河谷平野という特徴を異にする地形を範囲に含めながら自然環境を取り入れることにも成功していまして、冬のやわらかな夕日が落ちる町の風景は、利便性を維持しながらも、どこまでも自然な温かみを滲ませるもののように目に映りました。

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