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点描千葉市とその周辺


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#4 続・幕張随想 〜幕張の原風景への誘(いざな)い〜

12月11日水曜日、前回(11月30日)の京成津田沼〜JR幕張駅のフィールドワークに続き、JR幕張駅から幕張地域を周回し、花見川流域を内陸に進んだ後、京葉道路にほぼ沿うような形で千葉市北部の内陸を東に歩いて、JR四街道駅に至るルートを歩きました。一部に月曜日の降雪の名残があり、またその後の寒波の影響で寒い1日でしたが、千葉市の内陸の豊かな景観をいろいろと見ることができました。

幕張駅南側の庶民的な商店街の佇まいは、幕張の町がどういった性格の土地であったのかを端的に示してくれているように思えます。京成線の踏切を渡るあたりなどは、新都心方向の狭い道の両側に建ち並ぶ商店の景観と、西側の線路沿いに続く路地の佇まいが交錯して、一昔前の下町の情緒を髣髴とさせる光景です。線路沿いの路地の方を進み、京成幕張駅へ。近くに「甘藷先生」として知られる青木昆陽がさつまいもの試作を行ったとされる史跡昆陽神社があるはずだったのですが、駅西側の県道拡幅のため、一時的に解体されていたところで、見ることができませんでした。道路工事の完成後に、改めて新築される予定とのことでした。

仕方なく、さらに線路沿いを西に進み、幕張小学校の北東を過ぎて、仮に昆陽神社のご神体が安置されているという子守神社を目指しました。この道すがらは、まさに昔ながらの幕張を想像させる、細い路地を介した住宅街が広がっていました。平日の日中ということもあってか、行き交う人の姿もまばらです。このあたりは、集合住宅もあまり見られず、おそらく都市化が急速に進行した1960年代に建てられた住宅が、基本的に現在でも継承されてきている場所なのであろうと思われました。

やがて、住宅と住宅の間にすっぽりと収まった格好の、子守神社の鳥居に到達。大きな銀杏の木の下に、赤いトタン屋根の小ぢんまりとした社殿が、白いフェンスに囲まれています。なんと、この神社も改修中で、近づくことができません。入ってきた道を振り返ると、鳥居の向こうに、新都心の建物が古くからの町並みで覆われて狭まった視界いっぱいに建ち並ぶ様子が見られました。

子守神社鳥居から新都心を見る

子守神社鳥居越しに新都心を望む
(花見川区幕張町二丁目、2002.12.11撮影)
子守神社(修復中)

子守神社(当時修復中でした)
(花見川区幕張町二丁目、2002.12.11撮影)

神社南の2メートル強くらいの細い細い路地を通過し、蓋がされ暗渠となった浜田川を越え、浅間大神のある森の横を通過すると、近代的な住宅地として区画整理された幕張本郷地区へと入っていきます。高層住宅も多く、広い歩道に豊かな街路樹で整えられた幕張本郷は、これまで歩いてきた幕張駅周辺とは好対照です。駅前も立派なターミナルが整備されており、新都心への玄関口として意識的に位置付けられているまちづくりがなされたということが類推できます(地図を見ると、幕張本郷駅から新都心まで幹線道路が整備されていますね。また、幕張駅構内でも、「新都心方面へは、幕張本郷駅からバスが出ています」という表示が目に付きました)。地区を二分するように、シェルターに覆われた京葉道路が貫通していますが、津田沼同様騒音等は全く気になりませんでしたね。

幕張本郷駅付近は、人通り、車通りとも多く、活気ある高燥住宅地の趣でした。駅のすぐ東側に架けられた高架橋から津田沼方面、幕張方面を眺望しましたが、新都心のビルがとにかく目立つ東側と、津田沼の高度総ビル群との間に若干の空閑地域の見られる津田沼方面との違いが印象的でした。もともとは住宅の少ない台地であったであろうこの場所が計画的に住宅地として整備され、新都心への入口と位置付けられ成長したという地域史が想定されるところです。

JR幕張本郷駅南口

JR幕張本郷駅南口
(2002.12.11撮影)
幕張本郷地内の景観

幕張本郷地内の住宅地景観
(花見川区幕張本郷五丁目、2002.12.11撮影)

線路の北側も、高層住宅と個人住宅とが整然とした街路の町に建ち並ぶ光景は同じです。リフレ京成の交差点を東に折れ、幕張本郷中学校の北を過ぎ、再び京葉道路を過ぎて(駅南は高架で超えていますが、北側は京葉道路の方が掘り下げられています)、幕張本郷の乗る台地の端に到達しました。台地の上からは、住宅もほとんど見られない、草原の広がる谷地の様子が眺められます。京葉道路の脇から下に降りられるようでしたので、もともと犢橋方面に行く予定であったことから、谷地の様子も見てみようという衝動に駆られて、降りて行ってみることにしました。地図で確認すると、習志野市東習志野あたりを水源に持つと思われる浜田川と、習志野市屋敷あたりを源とするその支谷が形成する小規模な谷地であることが見て取れます。京葉道路沿いに付けられた道路を北東方向に歩き、枯草が卓越する半ば荒地となった谷地を進みました。

「ごみの不法投棄禁止」、「不法投棄監視区域」などの表示もむなしく、道路沿いや雑草に覆われた土地などには、ここかしこにごみが捨てられ、完全に荒れ放題となっています。1ヶ月ほど前に、同じような地形であるさいたま市見沼を歩いた時とは、まったく正反対の、無残な環境破壊の様子は、見るに耐えませんでした。団地と高速道路の影になっているという土地柄が、この場所を最悪の状態にさせてしまっているように思われました。幕張東小学校付近になって、やっと普通の集落景観になり、三代王神社のある森付近まで来ると高層住宅も出現して落ちついた景観が回復しました。このあたりも新都心方向への視界が良好で、マリブイースト・ウエストを中心とした高層ビル群が燦然と屹立する様子がしっかりと眺められましたね。

東関道近くの谷地

東関道近くの階段から、谷地を望む
(花見川区幕張本郷四丁目、2002.12.11撮影)
幕張町四丁目付近

谷地内の耕作地から新都心を望む
(花見川区幕張町四丁目、2002.12.11撮影)

幕張駅北口へと続く県道57号線を横断し、このあたりから住所は幕張町から隣の武石町へと移り変わります。三代王神社のある森は、浜田川河谷の東側の端に発達した崖に沿って成長した斜面林で、県道はこの交差点付近で一気に勾配を増して、この崖を上がっていきます。私は、この台地の端の崖に沿って引き続き発達した斜面林に沿って伸びる武石町(2丁目)の集落内を東に進み、花見川を目指しました。

この武石町の集落景観が、また実に落ちついた雰囲気で、背後に背負う斜面林とあいまってとても奥ゆかしい町並みを作り出していて、たいへん好感が持てました。昔ながらの、庭の広い穏やかな住宅が、豊かに配された木々に囲まれて連続します。そして、町のすぐ南には水田が広がっており、検見川方面への眺望にも優れています。さながら、「プチ小京都」のような佇まいです。このような豊かな集落景観が今後とも残されていって欲しいと心から思える、そんな風景でしたね。

蔵と木の見える町並み

蔵と木の見える町並み
(花見川区武石町一丁目、2002.12.11撮影)
斜面林、谷地、集落

斜面林、畑地、集落
(花見川区武石町一丁目、2002.12.11撮影)

やがて、この地域を悠々と流れる花見川に行き当たりました。対岸には、花見川区役所や瑞穂小学校を持つ瑞穂地域の近代的な都市景観が広がります。この区名にもなっている花見川ですが、意外なことに上流は印旛沼です。とはいえ、これは人為的に印旛沼の水が通水された結果のもののようですが。右手にゆったりとした花見川の流れを、左手に畑や水田、背後に屋敷林を背負った武石町の集落を見ながら、川沿いの遊歩道を上流に向かって進みました。川沿いの狭い土地も、一部畑として野菜が栽培されており、これはおそらく自家消費用と目されますが、このあたりにも、農業粗生産額県内第3位である千葉市農業の姿を垣間見た思いでした。
この地域で一際大きい河谷を形成する花見川は、まさにここを象徴する自然環境であると思われ、区名に採用された意義を改めて感じました。川沿いを散策する人も多く、川の水が若干澱んでいるように見えたことは別として、地域に潤いを与えるこの川とこの川のつくる景観とが今後もこの地域を彩っていくことになるのでしょうか。

花見川沿いでも、南西方向を眺めれば、新都心のビル群がくっきりと眺められます。新都心地区と幕張本郷地区に、鉄路沿いの若干の市街地を除けば、台地と台地を刻む小規模な谷地とが連続する地形の上に豊かに広がった、のどかな田園地域・住宅地域である幕張ですが、そのどこにいても、この新都心の威容はついて回りました。政令指定都市・千葉の顔の1つとして華々しく開発された幕張新都心ですが、それはあくまで「千葉市の顔」であり、幕張地域(の原風景)を象徴する事物ではないことをその度に感じました。新都心のビル群の景観は、壮観で、美しいことは疑いありません。とはいえ、それが幕張地域の持つ本来の地域性を埋没させてしまうようでは、何か勿体無いような気がします。谷地の景観や、武石町付近に代表される落ちついた集落景観などの幕張の本来の風景を存分に感じながら、京葉道路を三度通過し、花見川を渡って、畑町方面へ向かいました。

(5)の文章へ続きます。

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