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熱海の歴史と自然、町並みをめぐる

 2016年12月10日、初冬の熱海を訪れました。温泉地として古くより発展し、保養都市の代表のひとつである熱海の市街地を回遊しながら、豊かな風光に彩られた地域の姿を確認することができました。

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ページ設置:2019年1月8日

伊豆山神社から走り湯へ 〜海と山とが織りなす風光〜

 熱海駅は東海道新幹線開業時から新幹線の停車する駅でした。一駅となりの停車駅は、小田原駅と静岡駅です。小田原駅との距離を考えますと、いかに熱海が多くの乗降客を見込める駅であったかが類推できます。観光の多様化により一時ほどの爆発的な賑わいはなくなったとはいえ、この日の熱海駅前は多くの人々で溢れていまして、変わらぬ温泉地としての喧噪を呈していました。新駅ビル「ラスカ熱海」が颯爽と屹立する駅前を、東北方向に向けて出発します。

熱海駅

JR熱海駅(ラスカ熱海)
(熱海市田原本町、2016.12.10撮影)
リゾートマンション

リゾートマンションの見える風景
(熱海市海光町付近、2016.12.10撮影)
伊豆山

伊豆山地区の風景
(熱海市伊豆山、2016.12.10撮影)
真鶴半島と三浦半島を遠望

真鶴半島と三浦半島を遠望
(熱海市伊豆山、2016.12.10撮影)
伊豆山地区

伊豆山地区、山並みを望む
(熱海市伊豆山、2016.12.10撮影)
伊豆山神社付近

伊豆山神社付近の景観
(熱海市伊豆山、2016.12.10撮影)

 熱海の市街地は伊豆半島の東岸、半島を南北に縦断する脊梁が迫る、ごく狭い低地とその背後の丘陵地に展開しています。駅前を過ぎるとすぐに道は急勾配となって、リゾートマンションなどが多く立地する中、坂道を上っていくこととなりました。振り返りますと海をくっきりと見通すことができ、冬の日に霞むような伊豆大島とおぼしき島影も確認することができます。さらに坂を上りますと、山並みへと連接する森の中に個人住宅やマンションが点在する風景へと移り変わります。見通しの利く場所からは、相模湾の美しいマリンブルーを眺望することができ、真鶴半島の先に三浦半島が横たわる様子も見て取れました。目の前には高く盛り上がった山並みも迫りまして、海と山が間近に寄り添う風光を存分に探勝することができます。

 そうした海と山とがつくる暖地性の雰囲気を醸す地域をしばらく辿ります。地区の西側の高台にある般若院の境内には足湯があって、伊豆山地区の風景の向こうに海とそこに浮かぶ初島、そして伊豆大島とを展望することができました。さらに傾斜地に住宅地が広がるエリアを進んでいきますと、伊豆山神社の鳥居の前まで到達しました。美しい森に包まれた参道の石段を上り、本殿へ。温かい陽気を反映するように、境内のカエデは12月の中旬となっても鮮やかに色づいていました。境内からは、これまでの道のりを総括するように、伊豆山地区の緑と家並み、相模湾の海原と、伊豆大島から初島を一望の下に見渡すことができました。伊東方向の陸地の上に三角形に突き出していたのはおそらく利島の島影であったのでしょう。伊豆山神社の参道は海岸へ向かって837段もの石段となっています。穏やかな緑に覆われた伊豆山地区の中を進む参道の石段を、目の前に輝く海を眺めがら下っていきました。

伊豆山神社

伊豆山神社の参道
(熱海市伊豆山、2016.12.10撮影)
伊豆山神社

伊豆山神社
(熱海市伊豆山、2016.12.10撮影)
伊豆山神社境内からの風景

伊豆山神社境内から初島、大島、利島を望む
(熱海市伊豆山、2016.12.10撮影)
伊豆山神社の参道を下る

伊豆山神社の参道を下る
(熱海市伊豆山、2016.12.10撮影)
伊豆山温泉の温泉街

伊豆山温泉の温泉街(国道沿い)
(熱海市伊豆山、2016.12.10撮影)
走り湯

走り湯の入口
(熱海市伊豆山、2016.12.10撮影)

 石段の途中の東海道線と新幹線の鉄路が見える場所を経て、国道135号へと至ります。国道に沿って建物がひしめき合うように建っていまして、伊豆山温泉の温泉街が形成されています。さらに海へ向かって参道の石段を降りていきますと、源泉の「走り湯」へとたどり着きました。洞窟の中から湧き出す温泉は、現地では「日本三大古泉」とも紹介されています。伊豆山神社の信仰の源であり、「湯が出ずる」という意味で「伊豆山」となり当地の地名となるとともに、「伊豆」の名前の由来ともなった場所であるともいわれています。逢初(あいぞめ)坂とも呼ばれる石段を国道まで戻って、熱海の中心市街地へ向かって国道を南へと進みました。


熱海市街地散策 〜海岸と源泉周辺の穏やかな町並み〜

 伊豆山温泉の温泉街から国道135号沿いを、海の左手に見ながら歩きます。足川交差点を過ぎ、春日町交差点まで来ますと、道路は徐々に下り勾配の度合いを増して、眼前に熱海サンビーチの砂浜と温泉街を中心に建物が密集する熱海の市街地が美しく目に入ってきました。人工の砂浜であるサンビーチには、ヤシの並木が南国的な雰囲気を演出する美しい風景が広がっています。海岸の間近までリゾートマンションやホテルが建ち並ぶ景観は、まさに壮観です。尾崎紅葉の小説「金色夜叉」に因む「お宮の松」でも知られます。ヨットやボートが係留されたスパマリーナ熱海に面するウッドデッキが設えられた親水公園を歩きながら、温泉と海岸とが一体となった熱海の風光に触れました。海と山と圧倒的な規模で発達した宿泊・観光施設の建物群とが織りなす眺めは、首都圏近郊にあっては随一のものと言っても過言ではないでしょうか。

走り湯前からの景観

走り湯前から初島と大島を望む
(熱海市伊豆山、2016.12.10撮影)


逢初橋
(熱海市伊豆山、2016.12.10撮影)
熱海市街地遠望

熱海市街地遠望
(熱海市東海岸町、2016.12.10撮影)
熱海サンビーチ付近の景観

熱海サンビーチ付近の景観
(熱海市東海岸町、2016.12.10撮影)
海岸にマンションやホテルが迫る

海岸にマンションやホテルが迫る
(熱海市東海岸町、2016.12.10撮影)
お宮の松

お宮の松
(熱海市東海岸町、2016.12.10撮影)

 海岸周辺の散策を終え、渚歩道橋と呼ばれる歩道橋で国道を越えて、温泉街の中心へと歩を進めます。熱海の町並みは傾斜地に展開しています。そのため、緑の濃い山並みに建物が溶け込むような風景が立体的に目の前に広がることから、視覚的によりくっきりと町並みを俯瞰することができます。こうした地形的な特徴も、熱海の美しい風趣を創出しているように思います。そのまま市街地を西へ進みますと、起雲閣(きうんかく)の北側へと行き着きます。起雲閣は、明治末期から戦後にかけて実業家、政治家として活躍した内田信也が1918(大正7)年に建設した別邸をその端緒としています。その後は根津嘉一郎の手により洋館や庭園が整えられ、戦後に旅館として供された後、現在は熱海市が文化財として一般公開しているものです。背景の山並みを借景とするような庭園と、贅を尽くした洋館からなる佇まいは、多くの財界人や文化人に愛され、別荘地として開発されてきた熱海の近代史を余すことなく表現していました。

 清水町商店街から市役所前にかけての昔ながらの商店街の雰囲気や、芸妓検見番の風情を一瞥しながら、湯煙を上げる小沢(こさわ)の湯(平左衛門の湯)など、熱海七湯と呼ばれる源泉が点在する温泉街を進んでいきます。中でも、「大湯間歇泉」は、湯前神社の間近にあって、熱海の温泉街象徴する間欠泉として大正初期までは規則的に湯と蒸気を噴出していました。1923(大正12)年の関東大震災以後は衰微し噴出が途絶えてしまい、現在は1962(昭和37)年に人工的に噴き出すよう再整備が行われて今日に至っています。この源泉が集積する一帯が熱海の町の原点であるといえまして、海と山に囲まれた環境、そして首都圏からのアクセスも手伝って、町は保養地として飛躍していくこととなります。



熱海サンビーチの風景
(熱海市東海岸町、2016.12.10撮影)
スパマリーナ熱海と親水公園

スパマリーナ熱海と親水公園のデッキ
(熱海市渚町、2016.12.10撮影)
サンビーチと市街地

サンビーチと市街地が見える風景
(熱海市東海岸町、2016.12.10撮影)
ムーンテラスからの風景

ムーンテラスからの風景
(熱海市渚町、2016.12.10撮影)
渚歩道橋から市街地と山並みを望む

渚歩道橋から市街地と山並みを望む
(熱海市渚町、2016.12.10撮影)
起雲閣

起雲閣
(熱海市昭和町、2016.12.10撮影)

 湯前神社の鳥居前を過ぎ、上り勾配の狭い道路をさらに歩いて在来線と新幹線の高架下をくぐりますと、穏やかな杜に覆われた地域の古社、來宮(きのみや)神社の前へと導かれました。町並みと山並みの際に境内が開かれた神社が、鉄路によって市街地と分断されていることは、利用できる土地が元来少なかった熱海の地域性を象徴するしている現象であるとも言えます。温暖な空気に包まれる熱海らしい暖地性の照葉樹が目立つ木々の中には、樹齢2000年以上とも言われる国の天然記念物の大楠もしなやかに樹勢を誇っていました。どこまでもなめらかにある海原と、大地の営力を受け継ぐ温泉、そして生命力に溢れる山並みの緑は、熱海の町を力強く、そしてやさしく抱擁して、多くの人々を惹きつけて止まないということを、たくさんの参詣客で賑わう神社にて改めて実感しました。

 來宮神社から熱海駅までの帰路は、市街地を俯瞰するように迂回する市道を辿りました。目の前にはこの日の散策で随所に目にしてきた、海や山や活気ある町並みとが織りなす景色が、鮮やかに移り変わっていきます。沿道には熱海七湯のひとつである「野中の湯」が、もくもくと白い噴気をあげていたのが印象的でした。伊豆半島は遙か昔には太平洋上にあった火山島で、それがプレートの運動に伴って北へ移動し、およそ60万年前に本州に衝突、現在も本州に向かって沈み込みを続けています。こうした地球の活動が現在進行形で行われていることの証拠でもあるわけです。最後は駅前へと続くアーケード商店街である「平和通り名店街」の下を抜けて、熱海駅前へと至りました。

清水町商店街

清水町商店街
(熱海市清水町、2016.12.10撮影)
中心市街地

中心市街地の景観
(熱海市銀座町、2016.12.10撮影)
大湯間歇泉

大湯間歇泉
(熱海市上宿町、2016.12.10撮影)
來宮神社の大楠

來宮神社の大楠
(熱海市西山町、2016.12.10撮影)
野中の湯

野中の湯
(熱海市咲見町、2016.12.10撮影)
平和通り名店街

平和通り名店街
(熱海市田原本町、2016.12.10撮影)

 正午前に熱海駅を出発し、およそ3時間あまりの熱海市街地散策でしたが、温泉と海と山とに彩られた一大観光地である熱海の歴史や、豊かな自然、そして長きにわたり夥しい数の人々を癒やしてきた温泉と、そうした事物によって形成されたのびやかな町並みとを、十分に味わうことができた彷徨となりました。日が西へ傾き、徐々に夕闇に包まれる町並みはどこまでも鷹揚としていて、建物の間に広がる冬の残照を軽やかに受け止めていました。

※本稿は、JR東日本主催の駅からハイキング 「ラスカ熱海」開業記念!熱海の歴史・景観を満喫するハイキング に参加した結果に基づき執筆したものです。



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